日本語マナーの歳時記
はじめに
言葉遣いへの心くばりは、相手とのコミュニケーションを考える上でも欠かせないものです。心があれば言葉遣いなんて二の次だというのもわからなくはありませんが、その心を何で表すかと言えば、態度や言葉でしょう。相手に対しての敬意や心くばりを表す言葉を「敬語」と呼びますが、この敬語は、ビジネスの場面でのみ使うものかというと決してそうではありませんね。目上の人との会話、改まった場面など、日常生活でもたくさんの場面で使われます。また、対面での会話以外に、電話応対、手紙とその範囲も広いでしょう。
言葉は常に生活に密着しています。服装にもTPOや季節感があるように、各場面でどれだけふさわしい言葉を選り分けて使うことができるかどうかが、肝心です。
場面と言葉の調和、そして心くばりを基本に、季節やその時々で話題になる、気になる言葉などを取り上げながら、言葉の疑問点や注意点、ポイントなどを見直す「日本語マナーの歳時記帳」として、ご覧いただければ嬉しいことと思っております。
プロフィール

井上 明美(いのうえ あけみ)
ビジネスマナー・話し方・敬語講師 国語学者、故金田一春彦(事務所)元秘書。 現在は在職中に引き続き、言葉の使い方や敬語の講師として、企業、学校など 教育研修指導の場で幅広く活躍。 「心くばりの感じられる生きた敬語の使い方」を 得意とし、話し方のほか、手紙の書き方などに関する執筆や講演も多い。 著書に『敬語使いこなしパーフェクトマニュアル』(小学館)、『金田一先生に教わった敬語のこころ』(学研教育出版)、『敬語美人になる!』(講談社)、『一筆箋、はがき、短い手紙の書き方』(主婦と生活社)、『真逆の日本語』(中経出版)などがある。最新刊『パーフェクトマニュアル 最新 手紙・メールのマナーQ&A事典』も好評発売中。
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第42回 身近な「女房詞」 寒さも本格的になり、忘年会などの場でもおでんや鍋物などの温かい食べ物が恋しい季節となりました。 ところで、この「おでん」という言葉は、一体どこからきたのでしょうか。 「おでん」とは、もともとは田楽のことを指す「女房詞 <ことば>」からきたと言われています。「女房詞」とは、室町時代初期ごろから宮中に仕えていた女房たちが使っていた一種の隠語のようなものです。…
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第41回 最近よく耳にする「なので~」の使い方 「年末は皆さん何かとお忙しいと思います。なので、出欠の御返事はなるべく早めにいただけると助かります」 というような「なので」の使い方を最近よく耳にします。言葉の感じ方にも個人差がありますから、別に気にならないという方もあるでしょうが、何だか違和感を覚えるという声も多いようです。 もっとも、手紙などの書き言葉の場合に使用する例は少なく、どちらかというと…
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第40回 「先生が案内していただきまして」? 秋は、結婚式やパーティーなどの催し物も多いため、案内状や手紙を出す機会というのも案外あるものです。 さて、そのような文章を書く際に、時折「てにをは」などの助詞の使い方や句読点の使い方の注意点というのが挙げられることがあります。 次の例文をもとに考えてみましょう。「私は先週郷里から帰った先生に手紙を書きました」 文章としては間違いではありませんが、よ…
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第39回「お召しやすいコートとは?」 9月の16日は「敬老の日」でしたね。日頃のご無沙汰のおわびや感謝の気持ちをこめて、贈り物をしたという方もあるかもしれません。 さて、そんな贈り物を選ぶ場面で、先日こんな言葉を耳にしました。 「(おばあさまへのプレゼントでしたら)こちらのほうが生地もやわらかく お召しやすいかと思いますが、いかがでしょうか」 ちょっと聞いただけでは気が付かないかもしれません…
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第38回 「省略しても良いもの、悪いもの」 猛暑もようやく去り秋の訪れが待たれるころですが、この暑さに負けないように、食事にも気を配ったという方も多いことでしょう。夏負けを防ぐために鰻をというのは今では広く知られていますが、鰻を食べる習慣は古くはさかのぼること、『万葉集』の大伴家持の歌にもその例が見られます。 石麻呂にわれもの申す夏やせによしといふ物そ鰻取りめせ このころからすでに鰻は、夏負…
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第37回 「ご説明させていただく」は誤用?
第37回 「ご説明させていただく」は誤用? お中元の季節、こんな文面の添え状とともに親しい方から贈り物をいただいたという方もあるのではないでしょうか。 夏のご挨拶のしるしまでに、ほんの気持ちばかりですが、お送りさせていただきます。 この「お送りさせていただく」という表現、二重敬語であり誤用なのではないかと迷う人が多いと聞きます。では、そもそも「二重敬語」とはなんであるのか、再度見直しながら…
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第36回 「前線が通過いたします」はだれへの敬語? 前回、「ご報告いたします」と「報告いたします」の違いを比べ、その中で、「いたす」は主語を低め聞き手に対し丁重に述べる働きをもつ謙譲語(謙譲語Ⅱ 丁重語)であるという話をしました。では、次の例のような場合の「いたす」も、果たして同じように、主語を低めて聞き手に丁重に述べているといえるのでしょうか? 例「電車が通過いたします」 この場…
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第35回 「部長にご報告いたします」と「部長に報告いたします」 職場によって時期の違いはあるでしょうが、入社からしばらく経つと、新入社員も徐々に独り立ちし、取引先の人の応対をひとりで行うようなことも増えてくるものですね。さて、取引先の相手との話を、会社に戻って自分の上司に伝える必要があるというような場面で、次のような言い方を耳にすることがあります。 「(社に帰りましたら)上司にご報告いたしま…
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第34回 歌舞伎にまつわる言葉のいろいろ 明治22年に開場し改築や建て替えを重ねた歌舞伎座ですが、このほど4回目の建て替え工事も完了し、4月2日に杮(こけら)落としを迎えました。この「杮落とし」という言葉は、現在は運動施設などの開場行事に対しても使われることもあるようですが、本来はこの歌舞伎座に見られるような劇場の初興行のことをいう言葉でした。新築や改装などの工事の最後に、屋根などの木くず(=こ…
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第33回「~してあげる」はだれからだれへ? 前回、「与える」という言葉について触れましたが、同じように相手に何かを「与える(やる)」ような意をもつ語に「あげる(上げる)」という言葉があります。この「あげる」は、「~て(で)あげる」の形で使われる補助動詞の用法とともに、時折問題になることがあるようです。まずは、動詞「あげる」の意味から考えてみましょう。 「あげる」は本来、「箱を棚にあげる」のように…
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