共通語な方言
プロフィール

篠崎晃一(しのざきこういち)
1957年、千葉県生まれ。東京女子大学教授。 専門は方言学、社会言語学。方言調査の傍ら、各地の美味いモノ、美味い酒を供する居酒屋を探索することも楽しみとしている。『アレ何?大事典』『日本語でなまらナイト』『ウソ読みで引ける難読語辞典』『アルファベット略語便利辞典』『ことばの えじてん』(以上、小学館)等の監修の他、『例解新国語辞典』(三省堂)編修幹事。方言関連の専門書以外に、毎日新聞社との共著『出身地(イナカ)がわかる!気づかない方言』(毎日新聞社)等がある。
コラム記事一覧
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第32回 小学校の号令は実に様々
第32回 小学校の号令は実に様々 「起立!礼!着席!」。大学ではほとんど聞かれなくなったが、授業を始める前のお馴染みの号令。号令たるもの全国共通に違いないと思いきや、群馬や宮城では、「起立!注目!礼!」と言うのだ。この「注目」、「気をつけ!」にあたる意味で使われているようだ。 さらに沖縄では、「正座!礼!」という号令で授業が開始される。と言っても、机や椅子の上にきちんと膝を折って座り直すわけではな…
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第31回 「ゆっくり」「ゆったり」の意味を表す擬態語
第31回 「ゆっくり」「ゆったり」の意味を表す擬態語 先日、鹿児島から訪れた友人をスカイツリーに案内したときのことである。その友人がライトアップ間近の天空を見上げながらつぶやいた。「ちんちん、くろなった」。一緒にいた連中は、 暑さのせいで突然、妙なことを口走ったのかと大慌て。実は、鹿児島の「ちんちん」は、物事がゆっくりと少しずつ変化していく様子を表す擬態語なのだ。日が落ちてあたりがだんだん暗くなっ…
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第30回 “簡単”の意味の方言は簡単ではない?
第30回 “簡単”の意味の方言は簡単ではない? 「今日のテストみやすかったー!」 と言ってもカンニングし放題というわけではない。島根、広島、山口など中国地方の西部では「簡単だ」という意味で「みやすい」を使うのである。ただし、「難しい」の対義語としての「簡単」に位置づけられるほど”簡単”な話ではない。「ちょろいもんだ」とのニュアンスが含まれているようだ。むしろ共通語の「たやすい」に近いのかもしれ…
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第29回 「ちくちく」する感覚は地域によって違う?
第29回 「ちくちく」する感覚は地域によって違う? 急に寒くなってきたので、クロゼットからモヘアのセーターを取り出してきて着てみたものの、首のあたりがくすぐったいというのか、痛がゆいというのか、何とも言えぬむずむずとした違和感があって落ち着かない。このようなとき、共通語ではおそらく「ちくちく」としか表現のしようがないのだろう。 方言の世界には便利な表現があるもので、そのひとつが宮城の「いずい」…
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第28回 「寄りかかる」の意味を表す方言
第28回 「寄りかかる」の意味を表す方言 「すがらないでくださ~い!」 静まりかえった博物館に響く女性の声。山口まで来て痴漢行為の現場に遭遇かと緊張気味になるが、周囲は平然としている。怪しげな男の姿も見当たらない。どうもガラスケースに寄りかかっていた中年女性が係員に注意を受けたらしいということだった。状況を説明されてものみ込めない人が多いことだろう。実はこの「すがる」、山口や島根では、「(柱や…
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第27回 水っぽさを表す方言
第27回 水っぽさを表す方言 「わっ、このカレーしゃびしゃび!」。とても出来栄えを褒めている雰囲気ではない。そう、愛知では「水っぽい」ことを「しゃびしゃび」と表現するのである。「ゆるゆるのカレー」というわけだ。愛知のほか、岐阜、三重など東海地方では日常的に使われる表現で、「しゃびんしゃびん」と言う地域もある。本来ならもう少し粘り気があってしかるべきものの、とろみが足りなかったりゆるかったりしたと…
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第26回 「面倒くさい」の意味の方言
第26回 「面倒くさい」の意味の方言 夏休みを目前に控えた図書館での光景。 「あーレポートせんないわ」と嘆く山口出身の学生。大阪出身の学生に、「必修科目やけんせんないやん」と言われ、怪訝そうな顔をしている。山口の「せんない」は「面倒くさい」、大阪の「せんない」は「仕方がない」を意味するので会話がかみ合うはずがない。「せんない」は「やる甲斐がない」という意味で平安時代から使われている古…
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第25回 「しかも」「でら」「てんぽ」「ぶち」…強調表現は「とても」だけではない
「しかも旨い!」。「価格が安い上に美味しい」という意味ではない。ましてや「鹿の肉も美味しい」というわけではない。新潟の「しかも」は「とても」に当たる強調の表現なのである。「量が多い」ときには「しかもか食べる」のように使う。何とも紛らわしい。 名古屋に場所を移せば「でらうま」。 1995年から97年にかけて製造されたKIRINの名古屋工場限定生ビールの名称にも使われている。この缶ビールの発売によって…
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第24回 機械が、“めげ”たり“やぶれ”たりする?
「パソコンめげた!」 と言っても、岡山出身者にとっては、決してパソコン講習会で思うようにいかず気持ちがくじけてしまったわけではない。岡山では「壊れる」ことを「めげる」と言うのである。中国地方では広く使われており、兵庫県の西部や徳島まで広がりを見せている。「携帯めげた」「デジカメめげた」「自転車めげた」、とにかく何でも“めげる”のである。 「めげる」は江戸時代の文献に用例が見られるが、もともとは「壊…
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第23回 「気(き)」だけじゃなく「カ」「ケ」「リ」も“抜ける”?
「気(き)が抜けた」、と言ってもコラムの更新の間隔が開いてやる気がなくなったというわけではない。ビールやコーラの炭酸が抜けた状態を「気の抜けたビール」などと表現することがある。当然のごとく「気=炭酸」のことで、「気」は「気体」の意味だと思い込んでいた。ところが、国語辞典を引くと、「気」には、「そのもの特有の味わい、かおり」という意味があるではないか。『日本国語大辞典』によれば、鎌倉時代から用例が見…
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