日本語を使う日々
プロフィール

吉田戦車(よしだ せんしゃ)
1963年岩手県生まれ。1985年に漫画家デビュー。 『スポーツポン』『ぷりぷり県』『殴るぞ』など作品多数。現在は、ビッグコミックスピリッツ誌上にて『ひらけ相合傘』を好評連載中。第37回文藝春秋漫画賞を受賞した『伝染(うつ)るんです』は2009年にアニメ化され再び話題に。また、『吉田電車』『吉田自転車』『戦車映画』などのエッセイ、『吉田戦車の逃避めし』(ほぼ日刊イトイ新聞にてほぼ毎日更新中)など漫画以外でもその才能をいかんなく発揮。今回「ニホンゴ」をテーマに月1回連載するに当たって、決意表明のためか緊張のためか、初の(?)ネクタイ姿で登場(自画像が、です)。
コラム記事一覧
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第三十六回 「タコへの疑いが晴れた日」
第三十六回 「タコへの疑いが晴れた日」 寒い時期に生まれた子供は一歳になった。 体重は生まれた時の倍以上、8kgを越え、きっちりと重い。そのせいかどうかギックリ腰が再発したりもしたが、冬場の散歩はやはりベビーカーではなくだっこひもで、ということになっている。親も寒い、子も寒い。ならばくっついて暖をとろうという考え方だ。 子守りの散歩とはいえ、今のところ「魚屋つまんない、遊具があるところにいけ」など…
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第三十五回 「ああ、豆の持ちこみ」
第三十五回 「ああ、豆の持ちこみ」 なかなか迫力のある貼り紙を見た。 貼り紙には「禁止」を求めるものも多いが、この禁止は珍しい。 「豆持ちこみ厳禁!」 それほどまでに禁止される豆とは何か。豆が半径3メートル以内に近づくとアレルギーがおきる患者でもいるのか。 例えば警察に貼られていたら、市役所に貼られていたらと、あれこれ想像力を刺激される。 「豆持ちこみ厳禁!」(都庁) 「豆持ちこみ厳禁!」(理髪店…
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第三十四回 「だんごラブ! 甘じょっぱさよ永遠なれ」
第三十四回 「だんごラブ! 甘じょっぱさよ永遠なれ」 [だんご]は温かい日本語だ。 団子と書くわけであるが、団が暖に通じるからだろうか、ほっとする温かみを感じる。 例によって語源は諸説あるようだが、[団]という漢字の意味である[かたまり、集まり、まとまり]からきていると考えるのがしっくりくる。消防団、少年探偵団、団結の団だ。粒食に適さない未成熟な[粃米(しいなまい)]を粉にして、たいせつに食…
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第三十三回 「鍋と私」
第三十三回 「鍋と私」 鍋が好きだ。 よせ鍋やちゃんこ鍋などの鍋ものが好きなんだね、と思われるかもしれないが、もちろん好きではあるが、そういう意味ではない。 食べ物を煮炊きし、焼いたり揚げたり蒸したりするための道具であるところの鍋が好きだ。ぜんぜん料理好きじゃないのに「鍋が好きだーー!」などと叫べば、それはなんだか理解不能なある種のフェチシズムを感じさせるわけだが、さいわい料理好きだから、鍋…
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第三十二回 「三十文ぐらいの得の朝」
第三十二回 「三十文ぐらいの得の朝」 早起きは続いている。 よほど深酒したような日をのぞき、朝ごはんも8時前後にちゃんと食べる。 その深酒も、以前とくらべればめっきりへった。そう、昨年末から始めた「一日おき休酒」が、不規則ながら続いているおかげである。 昨年11月に327だったγ-GTP(肝機能の数値。正常値は0~50)は、8カ月後の今、100ちょっとまで下がった。 禁酒すればもっと早く…
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第三十一回 「朝まずめ今頃誰の手に魚」
第三十一回 「朝まずめ今頃誰の手に魚」 インタビューで割とされがちな質問がある。 「子供の頃、マンガは誰のファンでしたか?」 手塚治虫、石ノ森章太郎、赤塚不二夫、松本零士(文中すべて敬称略)等々、諸先生のお名前をあげるのだったが、単行本を買い求め愛読していたのに、なぜかこの方の名前が出ることはなかった。 矢口高雄。 そう、『釣りキチ三平』の矢口高雄である。あのマンガは、一時期の私の文字どお…
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第三十回 「眼病少年とスキヤキ」
第三十回 「眼病少年とスキヤキ」 久しぶりに眼科に行ってきた。 妻の伊藤に右まぶたのできものを指摘されたからだった。自覚症状はなかったが、気にしはじめるとなんだかごろごろするような気もする。 若いころは病院が嫌いで、熱が出ても自然治癒力で治したいと思うほうで、実際そうしてきたのだったが、最近は「毎月多額の健康保険料を払っとるなあ」ということがひしひしともったいなく思われ、割と積極的に行くようになっ…
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第二十九回 「あなた、私に隠してることはないですか?」
第二十九回 「あなた、私に隠してることはないですか?」 2010年1月に、無事女子が生まれた。 そして、あまりいいタイミングとは思えなかったが、4月~5月にかけて、大々的な引っ越しをした。 前年秋に「これは他人に渡したくない!」という中古物件に出会い、契約したのである。妻・伊藤理佐とともに有り金をはたきだし、初めて取り引きする地方銀行で、高い利息でがっちりローンを組んだ。メインバンクにしてい…
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第二十八回 「酒とガンマと男とGTP」
第二十八回 「酒とガンマと男とGTP」 成人してから20数年間、酒を飲み続けてきた。 酒がもたらす酩酊状態が好きであり、それによって「自分という人間の固さ」のようなものがほどけるのが好きだ。 友人ともよく飲んだが、一人で自室で飲む酒も愛好した。本が友であり、テレビ番組やレンタルビデオがつまみだった。ファミコンも酒をなめながらすることが多かった。 外で仕事をしているわけではないので、外飲みの…
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第二十七回 「[観る]も[視る]も[見る]でいい」
第二十七回 「[観る]も[視る]も[見る]でいい」 マンガのセリフを書いたり、文章を書いたりするときに、いまだに迷うのが「みる」ということばだ。 ネコを見る、電信柱を見る等々の「見る」に迷うことはないのだが、問題は「観る」である。映画を、歌舞伎を観る。気分としてはこれらも「見る」にしたいなあ、といつも思っている。 字として重いのである。 ワープロソフトはむずかしい漢字も簡単に変換できるわけ…
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