第39回「お召しやすいコートとは?」

第39回「お召しやすいコートとは?」

 9月の16日は「敬老の日」でしたね。日頃のご無沙汰のおわびや感謝の気持ちをこめて、贈り物をしたという方もあるかもしれません。
 さて、そんな贈り物を選ぶ場面で、先日こんな言葉を耳にしました。

 「(おばあさまへのプレゼントでしたら)こちらのほうが生地もやわらかく
 お召しやすいかと思いますが、いかがでしょうか」

 ちょっと聞いただけでは気が付かないかもしれませんが、よく考えてみますとなんだかおかしな表現です。
「いかがでしょうか」の部分は、「どう(ですか)・どう(でしょう)」を「いかが」を用いることによって改まった言い回しになり、適切な表現です。
 しかし、肝心の相手の動作を指す部分である「お召しやすい」という表現に問題があります。基本に戻って考えてみますと次のようになります。

 基本   「着る」
         ↓    尊敬語にすると
      「お召しになる」
         ↓   「やすい」を付けると
      「お召しになりやすい」

 ですから「お召しやすい」ではなく、「お召しになりやすい」が正しい表現であることがわかります。
 このような誤りの例はほかにも案外多いものです。
 たとえば「お求めやすい価格」という言い方は間違いで、正しくは「お求めになりやすい価格」、という例です。この場合、まずは「求める」という動詞を尊敬語にして、「お求めになる」とします。これに「やすい」を付けて、「お求めになりやすい」とすれば、正しい尊敬表現になるのです。 

※ちなみに、「求める」の尊敬語には、「求められる」(『れる・られる』型)、「お求めになる」(『お(ご) ~になる』型)、「お求めなさる」(『お(ご) ~なさる』型)などが挙げられるのですが、その中で今回の「+やすい」に一番なじみやすい型は、「お求めになる」(『お(ご) ~になる』型)でしょう。

 ほかにも、×「お分かりにくい点」→○「お分かりになりにくい点」などは日常よく聞く誤用例だと思います。
 同じように、よく使われる言葉をまとめてみますと、「お~やすい」ではなく「お~になりやすい」が響きも自然であり、適切な表現であることが理解できます。


 
 やはりいずれも、お書きやすいペン、お読みやすい場所、お話しやすい部屋、ご覧やすい席、お使いやすい品では不自然です。
 日ごろ何気なく使ってしまう間違えやすい表現ですが、おかしな言い回しにならないように注意したいものですね。

第39回「お召しやすいコートとは?」




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