第35回 「部長にご報告いたします」と「部長に報告いたします」

第35回 「部長にご報告いたします」と「部長に報告いたします」

 職場によって時期の違いはあるでしょうが、入社からしばらく経つと、新入社員も徐々に独り立ちし、取引先の人の応対をひとりで行うようなことも増えてくるものですね。さて、取引先の相手との話を、会社に戻って自分の上司に伝える必要があるというような場面で、次のような言い方を耳にすることがあります。

  「(社に帰りましたら)上司にご報告いたします」

  この表現について、不自然に感じる、正しいのかどうか迷うという人が多いようです。結論から言いますと、上記の表現は誤りですが、ではなぜ間違いなのでしょう。
 
  「ご報告いたします」は、「お(ご)~する」と「~いたす」という2つの敬語を含む言葉です。そのうち「お(ご)~する」は、主語(私)を低めて行為の相手(上司)を高める働きをもつ表現(謙譲語Ⅰ)、一方「~いたす」は、主語(私)を低めて聞き手(取引先)に対して丁重に述べる働きをもつ表現(謙譲語Ⅱ 丁重語)です。
 「お(ご)~する」も「~いたす」も同じ謙譲語であるため紛らわしいのですが、要するに、主語を低める(謙譲)という働きは同じでも、行為の相手を高める働きがあるかないかに違いがあるといえます。2つの敬語を組み合わせた「お(ご)~いたす」と「~いたす」だけを用いた言い方を比べると以下の表のようになります。

 先の例「(社に帰りましたら)上司にご報告いたしますので」では、「~いたす」の部分は聞き手(取引先)に対し丁重に述べているため問題ないのですが、「お(ご)~する」を用いるのは、自分の上司を高めることになるので、間違った敬語の使い方となってしまうのですね。正しくは、「(社に帰りましたら)上司に報告いたします」と「~いたす」のみを用いた表現になります。

 同様に、電話などでよく使われる「上司が戻りましたら、お伝えいたします」も、「お(ご)~する」の使い方の間違いといえます。
似た響きの「報告いたします」と「ご報告いたします」ですが、使い方や意味が異なるものであることを理解して、うっかり誤用しないよう注意したいものですね。
 

第35回 「部長にご報告いたします」と「部長に報告いたします」




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