第34回 歌舞伎にまつわる言葉のいろいろ

第34回 歌舞伎にまつわる言葉のいろいろ

 明治22年に開場し改築や建て替えを重ねた歌舞伎座ですが、このほど4回目の建て替え工事も完了し、4月2日に杮(こけら)落としを迎えました。この「杮落とし」という言葉は、現在は運動施設などの開場行事に対しても使われることもあるようですが、本来はこの歌舞伎座に見られるような劇場の初興行のことをいう言葉でした。新築や改装などの工事の最後に、屋根などの木くず(=こけら)を払い落とすことから、建物の完成後の初めての興行を「杮落とし」というようになったと言われています。
 
 私たちが日常何気なく使っている言葉の中には、語源をたどってみると、このように歌舞伎由来の言葉というものが案外たくさんあります。たとえば、使い方を間違えやすい言葉としてよく採り上げられる「役不足」も本来は歌舞伎役者の言葉からきたとされています。
「役不足」というのは、与えられた役に不満を抱くことの意から、力量に対して役目が不相応に軽いという意味で使われるようになった言葉です。しかし、現代では、「私には役不足ですが、ご期待にこたえられるよう務めたいと思います」などのように、本人の力量に対して役目が重すぎるという誤った意味で使ってしまうことがあるので注意が必要な言葉です。
 
 ほかにも、歌舞伎が語源の言葉としては、「幕」や「場」の付く言葉も多いものです。たとえば、「のべつ幕なし」「幕引き」「正念場」などがその例です。「幕引き」は読んで字のごとく舞台の幕を引くという意味から物事を終わらせることの意、また「正念場」は、歌舞伎・浄瑠璃などで、一曲一場の大事な見せ場の意から、真価を表すべき最も大事なところという意味で使われるようになった言葉です。最後の「のべつ幕なし」は、ひっきりなしという意で使われる言葉ですが、文化庁の平成23年度「国語に関する世論調査」によれば、以下のように、約3割の人が「のべつ幕なし」を「のべつくまなし」と混同して使っているという結果が出ています。

(問)どちらの言い方を使うかの問に対して
 「ひっきりなしに続くさま」を
 (a)のべつくまなし・・・・・・・・・・・・・・・32.1%
 (b)のべつまくなし・・・・・・・・・・・・・・・42.8%
 (a)と(b)の両方とも使う・・・・・・・・・1.5%
 (a)と(b)のどちらも使わない・・・・・18.1%
 分からない・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・5.5%
 
 「のべつくまなし」を使う人の誤用率が案外高いことに驚かされますが、「のべつまくなし」の「まく」とは「幕」であり、「幕間なくひっきりなしに続くさま」を表す言葉であることを知っていれば、このような間違いをすることもないでしょう。身近にある言葉の中も、言葉の由来を知って使うことで誤用を防ぐことができるといえますね。 

第34回 歌舞伎にまつわる言葉のいろいろ




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