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第42回 身近な「女房詞」

 寒さも本格的になり、忘年会などの場でもおでんや鍋物などの温かい食べ物が恋しい季節となりました。
 ところで、この「おでん」という言葉は、一体どこからきたのでしょうか。
「おでん」とは、もともとは田楽のことを指す「女房詞 <ことば>」からきたと言われています。「女房詞」とは、室町時代初期ごろから宮中に仕えていた女房たちが使っていた一種の隠語のようなものです。主に食べ物や体に関することに用いたそうですが、頭に「お」を付けて表現するもの、語尾に「もじ」を付けて表現するものなどいくつかの種類があります。これは、その時代のみ用いられていたものではなく、先ほどの「おでん」以外にも現在でも一般的に使われ、定着している語が案外多くあります。

 では、そのような例をいくつかあげてみましょう。

「女房詞」のいろいろ

 こうして見てみますと、ご飯の「おかず」やお彼岸の「おはぎ」、餅米の「おこわ」など、みな現代でもよく耳にする言葉が多いことがわかります。ほかにも、お正月など、おめでたい席で食される数の子なども「かずかず」と呼んだと言われます。
 そして、食べ物そのものではありませんが、料理の感想を述べる際などに用いる「おいしい料理」の「おいしい(美味しい)」という言葉も、もとは味がよいという意の女房詞で、「いしい」に接頭語の「お」が付いたものです。

 普段何気なく使っている言葉の中にも、今に伝えられている「女房詞」が多く存在しているというのは、たいへん興味深いものですね。

第42回 身近な「女房詞」




概要

言葉遣いへの心くばりは、相手とのコミュニケーションを考える上でも欠かせないものです。心があれば言葉遣いなんて二の次だというのもわからなくはありませんが、その心を何で表すかと言えば、態度や言葉でしょう。相手に対しての敬意や心くばりを表す言葉を「敬語」と呼びますが、この敬語は、ビジネスの場面でのみ使うものかというと決してそうではありませんね。目上の人との会話、改まった場面など、日常生活でもたくさんの場面で使われます。また、対面での会話以外に、電話応対、手紙とその範囲も広いでしょう。
言葉は常に生活に密着しています。服装にもTPOや季節感があるように、各場面でどれだけふさわしい言葉を選り分けて使うことができるかどうかが、肝心です。
場面と言葉の調和、そして心くばりを基本に、季節やその時々で話題になる、気になる言葉などを取り上げながら、言葉の疑問点や注意点、ポイントなどを見直す「日本語マナーの歳時記帳」として、ご覧いただければ嬉しいことと思っております。

プロフィール

井上 明美(いのうえ あけみ)

ビジネスマナー・話し方・敬語講師 国語学者、故金田一春彦(事務所)元秘書。 現在は在職中に引き続き、言葉の使い方や敬語の講師として、企業、学校など 教育研修指導の場で幅広く活躍。 「心くばりの感じられる生きた敬語の使い方」を 得意とし、話し方のほか、手紙の書き方などに関する執筆や講演も多い。 著書に『敬語使いこなしパーフェクトマニュアル』(小学館)、『金田一先生に教わった敬語のこころ』(学研教育出版)、『敬語美人になる!』(講談社)、『一筆箋、はがき、短い手紙の書き方』(主婦と生活社)、『真逆の日本語』(中経出版)などがある。最新刊『パーフェクトマニュアル 最新 手紙・メールのマナーQ&A事典』も好評発売中。

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