そのことば、江戸っ子だってね!?
概要
私たちが何気なく使っていることばの多くが、じつは江戸生まれだってご存じでしたか?
「江戸っ子」なことばたちを、江戸の人たちがどうやって生み出し、どのように育てていったのか、「へえ~」と思わずいいたくなる知識を、黄表紙や浮世絵の絵などとともにご紹介していきます。
プロフィール
棚橋正博(たなはしまさひろ)
1947年秋田県生まれ。 早稲田大学大学院講師。早稲田大学大学院修了。日本近世文学専攻。文学博士。 知られざる江戸の風俗文化を多くの人々に伝えることを使命としている。テレビや講演会などでも活躍中。 著書は『式亭三馬』(ぺりかん社)、『十返舎一九』(新典社)、『江戸の道楽』(講談社)、『江戸戯作草紙』『教科書が載せられない名文』『捏造されたヒーロー遠山金四郎』(小学館)など。
棚橋正博の公式サイトコラム記事一覧
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第76回 大根3題―「千六本」「大根役者」「練馬大根」
これから大根の美味しい季節になる。 大根は三冬(さんとう。冬の三か月のこと)の季語で、とくに11月の季語として俳諧では詠(よ)まれている。芭蕉の句がある。 鞍壺(くらつぼ)に小坊主乗るや大根(だいこ)引き (『炭俵』) 一家総出で大根の収穫に忙しく、帰りに大根を乗せることになる馬の背の鞍に、ちょこんと坊主が乗っているという冬の大根畑の田園光景を詠んだ句である。 現代は、品種改良やビニール…
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第75回 弥次さん北さん
「弥次(やじ)さん・北さん」といえば、江戸の戯作者(げさくしゃ)十返舎一九(じっぺんしゃいっく)のベストセラー『東海道中膝栗毛(とうかいどうちゅうひざくりげ)』に登場する主人公、弥次郎兵衛(やじろべえ)・北八のことで、いまも、二人旅をするときに「弥次さん・北さんみたいだね」と言うことがある。「弥次さん・北さん」という言葉は、この作品が生まれてから200年も生きている。 今年は一九の生誕250年…
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第74回 武士とボーナス
サラリーマンのボーナスの話には少し気が早いが、江戸幕府の幕臣たちにとって、10月はボーナスをもらうような気分になった月だった。というのも、年俸の半分にあたる切米(きりまい)が、この10月に支給されるからである。 たとえば200石(こく)取りの幕臣なら、100石(6000㎏)の切米が支払われる。 切米が支給される幕臣(旗本・御家人)の数はおよそ2万人いた。2万人にいっせいにコメを支給するのは物…
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第73回 江戸の時計と季節
アナログ人間か、デジタル人間かと分類するのが、ひと頃流行した。アナログ派である者にとって、駅頭やホームから丸い時計が消えてデジタル時計に変わってゆくのは寂しい気もする。 今回は、江戸の時間と時計の話である。 江戸時代の時刻に関する感覚は、おおざっぱだったと思われがちである。確かに落語でも、蕎麦屋へ今何時(なんどき)だと訊(き)く「時そば」とか、女房が時間を間違えて亭主を起こす失敗を描く「芝浜…
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第72回 三度の飯と団十郎
秋風が吹き出すと食欲の秋と行楽の秋になる。行楽の季節は、観劇に出掛ける季節でもあろう。江戸の観劇といえば歌舞伎であり、江戸歌舞伎といえば代々の市川団十郎が人気を支えていたと言えるだろう。 今回は、五代目団十郎作の有名な狂歌から始めよう。これは、天明6年(1786)刊行の狂歌集『吾妻曲狂歌文庫(あずまぶりきょくきょうかぶんこ)』に載っているものである。五代目は「花道つらね」の狂名を持ち狂歌師とし…
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第71回 二八(にっぱち)と品川遊郭
時間と季節を問わないコンビニ文化というか、季節感がなくなった現代でも、商売をする人たちは「二八(にっぱち)」と言って、2月と8月は商売にならない月だと嫌うところがある。 江戸時代は太陰暦(旧暦)だったから、現在の太陽暦でいえばだいたい1か月遅れで、それぞれ3月と9月になる。旧暦2月は、今ではすっかり季節の言葉となった「春一番」に代表されるような春嵐(しゅんらん)による海難事故を恐れて漁民たちは…
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第70回 江戸っ子とそうめん
真夏に涼感を呼ぶ食べ物は、こんにちでは沢山ある。麺類では「冷麺」、「冷やし中華」などと呼ばれるものが代表で、「冷やしうどん」といった看板も珍しくなくなった。 江戸時代の「冷麺」の代表格なのが「そうめん」である。もともと中国の食文化が発祥で、「索麺」(中国語でサクメンと発音)と呼ばれていた。中国から渡来したそのままの作り方が日本で広まったかどうかは微妙で、ラーメンが日本流に作られるようになったよ…
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第69回 年寄の冷や水
これから猛暑日の連続になると、老若を問わず氷水(こおりみず)が恋しい季節になる。地方によっては「こおりすい」「かきごおり」などと呼ぶようだが、ガラスの器に氷を細かく刻んだものに、シロップや蜜、果汁といった甘味を交ぜて、匙(さじ)で食べておいしい。 江戸時代は60歳代になると、こんにちで言う後期高齢者、れっきとした年寄だった。冷凍技術がなかったから製氷そのものがなく、井戸から汲みたての冷や水を飲…
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第68回 江戸の「狆」ブーム
近頃のペットブームで、さまざまな犬種が公園などを散歩しているのを見かけるが、とくに小形犬が目につく。「狆(ちん)」を飼う人もいて、その顔を見るたびにチンがクシャミをしたような顔、「チンクシャ」という言葉を思い出す。 江戸時代、「狆」は、将軍をはじめ大名や富裕町人がこぞって愛玩した高級犬の代表であった。 犬と江戸時代といえば、即座に「犬公方(いぬくぼう)」こと五代将軍徳川綱吉(つなよし)を想起…
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第67回 「歩きタバコ」の禁止
梅雨入りになって雨の日がつづくと、喫煙コーナーなどには屋根がないところが多いので閉口させられると、愛煙家の嘆きが聞こえてくる昨今でもある。 江戸時代は、今のような紙巻タバコではなく、刻みタバコだったから、キセルを使って喫煙した。凝ったデザインのタバコ入れを持ち、キセルをお洒落に使いこなす、そんな意気な小道具、タバコは江戸の庶民の間で大変流行っていた。 タバコが日本に渡来したのは、江戸幕府成立…
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