そのことば、江戸っ子だってね!?
概要
私たちが何気なく使っていることばの多くが、じつは江戸生まれだってご存じでしたか?
「江戸っ子」なことばたちを、江戸の人たちがどうやって生み出し、どのように育てていったのか、「へえ~」と思わずいいたくなる知識を、黄表紙や浮世絵の絵などとともにご紹介していきます。
プロフィール
棚橋正博(たなはしまさひろ)
1947年秋田県生まれ。 早稲田大学大学院講師。早稲田大学大学院修了。日本近世文学専攻。文学博士。 知られざる江戸の風俗文化を多くの人々に伝えることを使命としている。テレビや講演会などでも活躍中。 著書は『式亭三馬』(ぺりかん社)、『十返舎一九』(新典社)、『江戸の道楽』(講談社)、『江戸戯作草紙』『教科書が載せられない名文』『捏造されたヒーロー遠山金四郎』(小学館)など。
棚橋正博の公式サイトコラム記事一覧
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第86回 江戸の虫除けと油虫
卯月八日(うづきようか)、すなわち4月8日はお釈迦様の誕生日の灌仏会(かんぶつえ)、仏生会(ぶつしょうえ)、花祭りといって、江戸では釈迦像にかけた甘茶をもらった参拝者が、その甘茶を飲んで祝った日である。 江戸時代、卯月八日にかかわるちょっと変わった俗信があった。 江戸の人びとは、台所や便所などに、「千早振(ちはやふ)る卯月八日は吉日(きちにち)よ、かみ下虫(さげむし)を成敗ぞする」と書いた紙…
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第85回 嫁も姑も六阿弥陀詣
春の陽気に誘われて、人々は旅に出たくなる。 江戸時代後期になると、春秋の彼岸の頃に江戸の郊外を日帰りで歩く小旅行が流行(はや)った。今でいう「日帰りバスツアー」というところであろうか。そのひとつに「六阿弥陀詣(ろくあみだもうで)」がある。 嫁や姑、店の手代(てだい)、そして長屋の大家(おおや)までが連れ立って、江戸近郊の六寺の阿弥陀をめぐった。参詣とは名ばかりの行楽の旅である。道々よもやま話…
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第84回 らくだの見世物
暖かくなったかと思えば冷え込むこの時期、冬物をしまうかどうか迷うところである。昨今では横文字の暖か下着も流行しているが、昔ながらのらくだ色の「らくだのももひき」がやっぱりいい。「キャメルのインナー」などと言えばきっとお洒落なのだろう。 日本人は舶来ものが大好きである。江戸時代には、ラクダ、ゾウ、ロバ、ヒョウなど、異国の動物が次々と日本にやってきている。そして珍獣の見世物として庶民に親しまれてい…
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第83回 江戸の大雪
関東では春先に思わぬ大雪が降り、首都圏の交通機関が動かなくなることがある。 江戸時代、荷商いの小商人(こあきんど)は、大雪になると行商に出られず、それを待っていた庶民も困った。昔から、都市は雪に弱いのである。 しかし一方では、めったに見られない一面の銀世界となった江戸の名所を愛(め)でる風流人たちもいて、隅田川へ雪見舟を漕(こ)ぎ出し、仲間で向島や浅草の雪景色を望んだあと、川を下って深川の茶…
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第82回 節分と豆男
2月3日は節分であった。節分というのは本来、立春・立夏・立秋・立冬といった季節の移り変わりの節目の前日に行う行事だったが、今は、節分というと2月3日のことだけを言うようになった。 近頃は節分の豆まきよりも恵方巻(えほうま)きを食べて厄払いしようという人が増えたようで、豆まきも殻付きのピーナツにして、あとで年の数だけ食べた人も多かったろう。ピーナツ1個で1億円、ピーナツ3つで3億円というと、ニヤ…
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第81回 江戸の流行語大賞
昨年の流行語大賞は、「ダメよ~ダメダメ」だったとか。 江戸の流行語大賞といえば、さしずめ「日本(ニッポン)だ」だろう。これは、安永・天明頃(1772~89)に流行(はや)った言葉である。田沼意次(たぬまおきつぐ)が推進した殖産政策によって、世は挙げて消費文化に明け暮れるようになっていく頃である。現代で言えば、「日本だ」は「ステキだ」とか「素晴らしい」といった意味で、通人(つうじん)たちが流行(…
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第80回 湯屋の正月
正月11日は「鏡開き」であった。 神に供えた鏡餅を雑煮や汁粉に入れて食べる祝い事である。現代では鏡餅も真空パックに包まれて各家庭の神棚に飾られる御時世となり、なかの鏡餅が切餅になっているものもあって、手間いらずに美味しく食べられる この年中行事が庶民のあいだに定着したのは、江戸時代になってからのことである。商家では「蔵開き」ともいう。武家では「具足(ぐそく)開き」といって、武具の鐙(あぶみ)や冑(…
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第79回 芋を洗うようなにぎわい
年の暮れ近くになるとクリスマス商戦のジングルベルで慌ただしさをかき立てるが、それが終わると大晦日までは案外静かなのが現代の世相である。 江戸の年末は浅草寺での年(とし)の市に代表されるように、町中がどこかせわしなく落ち着きがない。寒修行で練り歩く寒念仏の声や僧侶姿で銭貰(ぜにもら)いする願人坊主(がんにんぼうず)の「まかしょ」の掛け声、新年の幸運を運ぶと唱えながら門付(かどづけ。物貰いのこと)…
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第78回 猫の手も借りたい
師走を迎え年の暮れ近くになると、忙しくなる商売の人たちのなかには、「猫の手も借りたい」と嘆く向きも多くなろう。英語では“cat”は登場せず“We are very short-handed.”などと、素っ気ない表現になるらしい。 江戸時代以前から、猫は愛玩動物として可愛がられていた。同じ愛玩動物でも「犬」とは違って、猫はあまり役立たない動物と見られることが多い。「猫ばば」などは、猫が糞をしたあ…
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第77回 江戸っ子と小判
「江戸っ子」という言葉が発生したのは、宝暦年間(1751~64)のことらしい。川柳(せんりゅう)に「江戸っ子」が出てくるのは、そのすぐあとの明和・安永年間(1764~81)のことだ。 江戸っ子の草鞋(わんらじ)を履(は)くらんがしさ(明和8年〈1771〉) 江戸っ子の生まれぞくない金をもち(安永2年〈1773〉) ちょっとそこに旅にでるために草鞋を履くのにも江戸っ子は騒々しい。そんな江戸っ子は…
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