日本語マナーの歳時記
概要
言葉遣いへの心くばりは、相手とのコミュニケーションを考える上でも欠かせないものです。心があれば言葉遣いなんて二の次だというのもわからなくはありませんが、その心を何で表すかと言えば、態度や言葉でしょう。相手に対しての敬意や心くばりを表す言葉を「敬語」と呼びますが、この敬語は、ビジネスの場面でのみ使うものかというと決してそうではありませんね。目上の人との会話、改まった場面など、日常生活でもたくさんの場面で使われます。また、対面での会話以外に、電話応対、手紙とその範囲も広いでしょう。
言葉は常に生活に密着しています。服装にもTPOや季節感があるように、各場面でどれだけふさわしい言葉を選り分けて使うことができるかどうかが、肝心です。
場面と言葉の調和、そして心くばりを基本に、季節やその時々で話題になる、気になる言葉などを取り上げながら、言葉の疑問点や注意点、ポイントなどを見直す「日本語マナーの歳時記帳」として、ご覧いただければ嬉しいことと思っております。
プロフィール
井上 明美(いのうえ あけみ)
ビジネスマナー・話し方・敬語講師 国語学者、故金田一春彦(事務所)元秘書。 現在は在職中に引き続き、言葉の使い方や敬語の講師として、企業、学校など 教育研修指導の場で幅広く活躍。 「心くばりの感じられる生きた敬語の使い方」を 得意とし、話し方のほか、手紙の書き方などに関する執筆や講演も多い。 著書に『敬語使いこなしパーフェクトマニュアル』(小学館)、『金田一先生に教わった敬語のこころ』(学研教育出版)、『敬語美人になる!』(講談社)、『一筆箋、はがき、短い手紙の書き方』(主婦と生活社)、『真逆の日本語』(中経出版)などがある。最新刊『パーフェクトマニュアル 最新 手紙・メールのマナーQ&A事典』も好評発売中。
コラム記事一覧
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第22回「鈴木様はおられますか?」は誤用?
4月は、入学や就職・転任など、環境の変化にともなう電話や手紙のやりとりも多いものですね。 さて、電話の会話で相手の在宅を確認する際に「鈴木様はいらっしゃいますか?」と言うことがありますが、これと同じ意味で使われる言い方に「鈴木様はおられますか?」という表現があり、その正誤についてしばしば問題になることがあります。 「おる」は通常「いる」の謙譲語として用いられますので、東京を中心とした特に話し言葉…
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第21回「おうわさは伺っております」
春は初対面の人と会う機会が多い季節ですね。初対面であっても、どこかでその人のうわさは聞いて知っているというような場合に、次のような表現が使われることがあります。 A「鈴木先生のおうわさは、よく伺っております」 B「鈴木先生のおうわさは、父からよく伺っております」 このAとBを比べてみた場合、どうでしょう?どちらも似た表現ではあるものの、Bは何だか気になります。これはなぜかと考えますと、「父から伺…
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第20回「こだわり」の数々
食欲の秋と言いますが、春ならではの採れたての野菜や山菜などもまた食欲をそそるものでしょう。テレビを見ておりますと、グルメ番組には必ずといっていいほど次のようなフレーズが登場します。 「こだわりの食材を使った、こだわりのメニューの数々…」 「今日はシェフこだわりの○○料理のお店におじゃましました!」 この「こだわり(の)~」という言い方は、料理関連に限ったものでもないようです。インターネットなどを…
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第19回 気になる「お」とは
立春を過ぎてもまだまだ寒い日が続き、肌の乾燥する季節ですね。さて、先日買い物をしておりましたら、化粧品のカウンターでの女性店員のこんな言葉が耳に入ってきました。「使いはじめてすごくお肌の調子がいいものですから、私もお肌のために 毎日使っているんです。お肌のためにはもうすごくお勧めなんですよ!」 何だか気になりますが、それはなぜかと言うと「お肌、お肌」と連発していることと、この「お」の使い方に問題…
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第18回「ございます」と「いらっしゃいます」2
前回、「お元気でございますか?」「鈴木様でございますね」など、「ございます」の用法について触れました。「ございます」は、「ある」をより丁寧にした丁寧語ですが、相手に対しての尊敬語にはならないため、「鈴木様でいらっしゃいますね」のように尊敬語の「いらっしゃる」を用いる表現のほうがふさわしいという例をあげました。 今回は、もうひとつ似たような表現で、よく問題に挙がる下記の例を取り上げてみましょう。「…
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第17回「ございます」と「いらっしゃいます」1
今年の年賀状の言葉には、復興や人との絆(きずな)を表すようなさまざまな言葉が見られました。久しく会っていない知人から元気で暮らしている様子を伝える賀状を受け取り、安堵した人も多かったのではないでしょうか。 さて、年賀状に書き添えるひと言は人によっていろいろですが、次のような言葉を目にしたことはありませんか?「ご無沙汰をいたしておりますが、お元気でございますか?」 この最後の「ございます」の使い方…
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第16回「殿」と「様」は どちらが偉い?
手紙の宛名に用いられる敬称について、使い方に迷うという声をよく耳にします。特に、「佐々木殿」と「佐々木様」はどちらがより丁寧か? 「人事部長」のような役職名の後には「殿」を付けるべきか「様」を付けるべきか? など、「殿」と「様」の違いについての疑問をもつ人が多いようです。 ここで、「殿」と「様」について、それぞれの言葉の歴史を見直してみましょう。 『日本国語大辞典 第二版』(小学館…
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第15回 お歳暮のお礼状(次回から贈り物を辞退したいとき)
年の瀬を迎え、デパートの催事場なども、お歳暮を選ぶ人で賑わいを見せていますね。「お中元」の折に、贈り物の送り状・添え状について触れましたが、贈り物を受け取る側もお礼状を書くことを忘れたくないものです。 お礼状は、通常、いただいた品物や心遣いへのお礼の言葉を書くものですが、時にはお礼に加えて、次回からの贈答を断る旨を伝えたいという場合もあります。例えば、職務上、決まりがあって贈答品を受け取れないよ…
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第14回「被災地への年賀状は?」
郵便局や文具店、コンビニエンスストアでも「年賀はがき」を見かける時季になりました。今年は東日本大震災後ということで「おめでとう」という言葉を使っても良いものかどうか迷うという人も多いと聞きます。年賀状の印刷でも、賀詞を省いたり日の丸がデザインされたりしたものも注目されているようです。 さて、大きな災害で多くの方が被害に遭われた今年、被災地に知り合いの方がいらっしゃるという方も多いことでしょう。で…
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第13回 お名前・御芳名…「返信はがき」のマナーこちらもおすすめ
秋は、運動会に、紅葉狩、ハロウィーンなど催し物も様々ですが、結婚シーズンでもありますね。結婚式の招待状が届いたという方も多いでしょう。結婚式などの招待状には、通常出欠用の返信はがきが同封されていますが、この返信はがきの書き方に迷うという声をよく聞きます。書き方やマナーについて確認してみましょう。 まず、招待状が届いたら、取り急ぎ電話やメールで返事をする場合もあると思いますが、その場合…
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