第40回 「先生が案内していただきまして」?
秋は、結婚式やパーティーなどの催し物も多いため、案内状や手紙を出す機会というのも案外あるものです。
さて、そのような文章を書く際に、時折「てにをは」などの助詞の使い方や句読点の使い方の注意点というのが挙げられることがあります。
次の例文をもとに考えてみましょう。
「私は先週郷里から帰った先生に手紙を書きました」
文章としては間違いではありませんが、よく考えると点の位置によって2通りの意味に解釈できることがわかります。
A「私は先週、郷里から帰った先生に手紙を書きました」
B「私は、先週郷里から帰った先生に手紙を書きました」
Aの文では、「私が先生に手紙を書いた」のは先週ということになります。
一方、Bは「先生が郷里から帰った」のは先週ということになります。
このように、ひとつの文章でいくつかの意味に解釈できる場合でも、たったひとつの「、」を付けることで意味がはっきりします。
また、次の例のように、「は」と「が」のどちらを選ぶかで、文章のニュアンスが変わる場合があります。
A「彼は、先日手紙に書きました田中さんです」
B「彼が、先日手紙に書きました田中さんです」
こちらを比べてみた場合、Aの「~は」は、「彼」がどういう人かという部分を表す「田中さん」を強めた言い方になります。
そしてBの「~が」は、「彼」の部分に重きを置いた表現という違いがあります。つまり別の言い方をするならば、Bは「彼が、話題の中心の」「彼が手紙に書いたあの」というような意味をもつ表現と言えるでしょう。
このような助詞の使い方は、敬語表現を用いた文章でも気になることがあります。
「先日はたいへんお世話になりましてありがとうございました。
紅葉の名所○○を先生が案内していただきまして、心より感謝申し上げます」
こちらもどの部分が誤りかは、言葉の不自然さでわかるものです。
「先生が案内していただいた」の部分が誤用で、正しくは次のどちらかの言い方になります。
A「先生が案内してくださった」
B「先生に案内していただいた」
相手が「くれる」ということは、自分が「もらう」と同じ意味ですから、これらは「くれる」「もらう」の部分を敬語にした表現なのです。
A「先生が案内してくれた」
↓
↓ 「くれる」を尊敬語で表すと「くださる」となり
↓
「先生が私を案内してくださった」
B「先生に案内してもらった」
↓
↓ 「もらう」を謙譲語で表すと「いただく」となり
↓
「私は先生に案内していただいた」
それぞれ尊敬語で表すか謙譲語で表すかの違いはありますが、意味は同じです。ここをうっかり、「先生が案内していただきまして」などとしてしまいますと、おかしな表現になります。手紙などの文章だけではなく、話し言葉ではなおのこと、見落としやすい誤用のひとつです。
(*注:『ご案内してくださった』『ご案内していただいた』とするのも誤用。詳しくは→第12回「ご記入してください」をご確認ください)
敬語の意味を活かすためにも、よく使う「助詞」や「、」なども適切に使いこなしたいものですね。
