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2024.7.25 金水敏先生スピーチ

2024年7月25日、「2024年 新企画発表会」 にて『日本国語大辞典』の改訂に着手することを発表しました。編集委員を代表し、日本語学者の金水敏先生がスピーチをしました。その抜粋を掲載します。

 

 私と『日本国語大辞典』との出会いですが、大学院生の頃、当時の京都大学教授であり、尊敬する渡辺実先生がこの『日本国語大辞典』の第二版改訂に向けた専門部会の部長をされていて、渡辺先生のご推薦で改訂作業の仕事に加わらせて頂きました。

 そこには日本語学を研究する当時の若手の大学院生が集められました。そこで仲良くなった学生たちが後に日本語学会を牽引していくことになるわけです(その時の仲間もそろそろ退職する時期には来ているんですけれども)。私たちの世代にとって、いわば「日本語学そのもの」の推進のエンジンとして、勉強や研究の傍らにずっと『日本国語大辞典』がありました。初版は古書店で買いましたし、第二版は新品を予約購買しました。そして第二版は、今でも自宅にあります(初版は大学院生に譲渡しました)。そしてこのたび、第三版の編集に携わることができたわけですが、これは大変光栄で、幸運な巡り合わせと感じております。

 このように私の研究人生は『日本国語大辞典』の歴史とともにあったわけですが、私たちの研究スタイルが変わってきたことと平行して、『日本国語大辞典』の歴史にも時代に応じて大きな変革がありました。

 初版はいわゆる伝統的な辞書の編集方式で、用例カードをもとにして、紙ベースで編纂が進められました。第二版も出発時点ではそういう形、紙で進んでいきましたが、現在は「ジャパンナレッジ」という日本語情報の検索サービスの中に入っています。大人でも抱えて立ち上がることが難しい『日本国語大辞典』が、なんとスマートフォンからでもアクセスできる。そういう時代になったんですね。

 そして実は、変革というのはそれだけではありません。ネットの中に入りクラウド化され、その瞬間に、「言語資源」としての性質が全く違ってくるのです。様々なデータベースと組み合わされて検索に活用されるだけでなく、近い将来には、AIが『日本国語大辞典』の資源を使って、様々にその性能を向上させていくことでしょう。『日本国語大辞典』に収められた50万語を超える項目は、まさしく、資源の少ない日本にとってもっとも貴重な資源の一つであり、クラウド化はその資源を最大限に活用していくための条件です。そういう時代の転換点に私たちは立っているということなのです。さきほどの紹介動画を見ていても、ちょっと人文系に寄りすぎていると感じましたが、もはや人文系・理系の垣根はないという風に思っていただいてよいと思います。

 日本国というよりは、日本語を愛する全ての人類にとっての貴重な資源であり、それを最大限にいかして、人類全体の発展にも貢献できるんじゃないか。いささか大風呂敷ではありますが、そんな風に信じております。

 そもそも、資源としての日本語の歴史というのは千数百年あるわけですよね。こんなに長い間、言語の歴史が資料として確かめられる言語はそうないんです(中国四千年の歴史には負けますけれど)。それでも、日本語の歴史的、資料的価値というのは極めて高いものであり、それがひとつの辞書の中に全て収められて、この語彙的な資源を自由に使える。そういう時代になったということを、ぜひ、この第三版の改訂で皆さんにも実感、体験していただきたいなという風に思っております。編集の方とも力を入れて進めて参りたいなと思っております。どうもありがとうございました。

 

2024年7月25日 小学館「2024年 新企画発表会」でスピーチする金水敏先生

2024年7月25日 小学館「2024年 新企画発表会」でスピーチする金水敏先生

 

◎プロフィール

金水敏

きんすい・さとし/1956年大阪府生。大阪大学大学院名誉教授、放送大学特任教授。日本学士院会員。博士(文学)。日本語文法学会会長、日本語学会会長を務める。専門は日本語史、役割語研究。『日本国語大辞典 第二版』の改訂にも関わる。

概要

2024年7月25日、『日本国語大辞典』の改訂に着手すると発表しました。
改訂作業のまっただなかにある編集部から、『日本国語大辞典』に関するお知らせやイベントレポートを不定期で発信します。

プロフィール

『日国』編集部

小学館辞書編集室『日本国語大辞典』担当と株式会社kotobaからなる。 ※寄稿の場合は、各記事にプロフィールを添えています。

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