日本語を使う日々
プロフィール
吉田戦車(よしだ せんしゃ)
1963年岩手県生まれ。1985年に漫画家デビュー。 『スポーツポン』『ぷりぷり県』『殴るぞ』など作品多数。現在は、ビッグコミックスピリッツ誌上にて『ひらけ相合傘』を好評連載中。第37回文藝春秋漫画賞を受賞した『伝染(うつ)るんです』は2009年にアニメ化され再び話題に。また、『吉田電車』『吉田自転車』『戦車映画』などのエッセイ、『吉田戦車の逃避めし』(ほぼ日刊イトイ新聞にてほぼ毎日更新中)など漫画以外でもその才能をいかんなく発揮。今回「ニホンゴ」をテーマに月1回連載するに当たって、決意表明のためか緊張のためか、初の(?)ネクタイ姿で登場(自画像が、です)。
コラム記事一覧
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第十六回 「趣味の手ぶら」
久しぶりに、人生2度目の軽いぎっくり腰になった。 快方に向かってはいるが、イスやしゃがんだ状態から立つときは 「……よ…っと」 という感じに慎重に腰を伸ばすような状態が続いている。 原因は自分だ。 いつもは腰痛持ちではないのだが、安いOAイスの座面がどうにもヘタレてきて、健康ざぶとん的なものを買って座ったり腰にあてたりしているうちに、慣れないその行為に腰がぎっくりした。 ごく軽症であり…
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第十五回 「遠足豪、湯河原をゆく」
スケジュールがきつい月末を抜けた、11月1日土曜日、快晴。 日中は汗ばむほどになりそうな、なんともいえない遠足日和だった。 伊藤理佐先生も前々日、徹夜で連載を一本描きあげ、「きつさ慣れ」している遅筆漫画家の意地を見せた。 伊藤先生の各担当氏からは「毎月旅行に行け」(原稿を早く入れてくれるから)という希望が出ているそうである。 日帰りを条件に選んだ目的地は、神奈川県の湯河原だ。 20年近…
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第十四回 「ああ、山梨県を見る目の変化」
漢字の読み方クイズに出そうな言葉として「生業」がある。 「なりわい」と読むわけで、小学生などには読めない人もずいぶんと多いのではないか。 調べずに字づらを見ると「生る」はわかる。実がなる、であり「なり」はふつうに読める。 問題は「わい」だ。業を「わい」と読むのか? 「わざ」とは読むわけで「わ」は合っている。「しわざ、おこない」という意味からむりやり考えれば、略したのが「わい」であろうか。 …
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第十三回 「駿河湾さわった海はシラス味」
夏生まれだからか、夏は好きだ。 だが、よく考えると秋も冬も好きなので、誕生日はあまり関係ないかもしれない。 春だけは少々苦手である。スギ花粉のせいでもあるが、花粉症になる前から、木の芽どきの生あたたかい空気は苦手だった。そういう人は多いらしく、体調を崩したり心が不安定になりがちな季節でもあるらしい。 このめどき。清新で初々しい、いい語感である。 なのに検索すると「不安」「不定愁訴」「鬱」…
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第十二回 「弱魔法の夏」
あちこちで日本語を使い続けて12回目。 第一回からざっと読んでみて、一年前の夏との「はっきりとしたちがい」を発見したので、報告しておこう。 第四回で「2007年の夏は、Tシャツの下にアンダーウェアを着て、過剰冷房対策にした」と書いた。 その習慣は今年の夏、あっというまにすたれた。 体感する暑さにほとんど変わりはない。暑い。 でも今年は下着などなしで大丈夫、ということになった理由は、店舗…
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第十一回 「色々学園の艶々先生」
かつてビッグコミックスピリッツで『学活!! つやつや担任』という学園マンガを連載していた。 私立高校「いろいろ学園」に勤務する教師、つやつや先生が主人公のマンガであり、いろいろ学園は、いろいろな生徒や先生がいるから、そう名づけたのだった。いやすみません、くだらなくて。 「いろいろ」はまさに「色々」であって、様々な色が世の中にあることから来ている日本語だろう。 つやつや先生は、漢字で書くと「艶…
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第十回 「響け熊鈴、そしてハナかむ音」
今回はクマについて考えてみることにしよう。 なぜいきなり、クマについて? それは5月の大型連休中に帰省をし、クマの生息地に近い場所で行楽をしたからである。 3日~5日という「行き、帰りの混雑のピーク」に協力するかのごときスケジュールで、父親の喜寿の祝いということで岩手県中西部、西和賀町の温泉宿に泊まりに行ったのだ。 秋田県に近い湯田町と沢内村が合併した新しい町であるが、その沢内村が、かつ…
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第九回 「刑事ドラマのあの部屋で」
【前回のあらすじ】 春、花粉症対策でよれよれのパーカを羽織り昼過ぎの雑踏を歩いていた「私」(※吉田戦車のこと=編集部注)。キョロキョロして(※ネタ探しのためか?=編集部注)不審だったため警察官から声を掛けられ、キーホルダーとして使用していた小型の万能ナイフが軽犯罪法違反であることを指摘される。警察署への同行を求められる「私」だが、美容室(※床屋ではない=編集部注)の予約があったため、後日、よれよれ…
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第八回 「しょっぴかれて、春」
しょっぴく、は「そびく」から来ており「強くひっぱる、無理に連れていく」という意味が、警察沙汰関係の言葉として定着したもののようだ。そびく → しょびく → しょっぴく、という変化か。 無理に連れていかれたわけではないが、警察にしょっぴかれた。 春であり花粉症対策のために、ポリエステル地の、かなり使いこんでよれてきている軽いパーカを羽織り、新しい服を買ってもいいか、などと考えながら、昼過ぎの雑…
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第七回 「勝負師たちの昼食」
「負けめし、勝ちめし」という言い方が好きだ。 「熟考の末にたのんだメニューが、当たりだったかはずれだったか」 という程度の意味である。 自炊や、家族が作ったものに勝ち負けを感じることはあまりなく(たとえおいしくなかったとしてもだ)どちらかといえば外食にともなう感情なのだろう。 店との勝負。そしてその店で食うことを選択した自分との勝負だ。 ドローか、やや押されぎみ程度の勝負ならよいが、完膚なきまでに…
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