日本語マナーの歳時記
概要
言葉遣いへの心くばりは、相手とのコミュニケーションを考える上でも欠かせないものです。心があれば言葉遣いなんて二の次だというのもわからなくはありませんが、その心を何で表すかと言えば、態度や言葉でしょう。相手に対しての敬意や心くばりを表す言葉を「敬語」と呼びますが、この敬語は、ビジネスの場面でのみ使うものかというと決してそうではありませんね。目上の人との会話、改まった場面など、日常生活でもたくさんの場面で使われます。また、対面での会話以外に、電話応対、手紙とその範囲も広いでしょう。
言葉は常に生活に密着しています。服装にもTPOや季節感があるように、各場面でどれだけふさわしい言葉を選り分けて使うことができるかどうかが、肝心です。
場面と言葉の調和、そして心くばりを基本に、季節やその時々で話題になる、気になる言葉などを取り上げながら、言葉の疑問点や注意点、ポイントなどを見直す「日本語マナーの歳時記帳」として、ご覧いただければ嬉しいことと思っております。
プロフィール
井上 明美(いのうえ あけみ)
ビジネスマナー・話し方・敬語講師 国語学者、故金田一春彦(事務所)元秘書。 現在は在職中に引き続き、言葉の使い方や敬語の講師として、企業、学校など 教育研修指導の場で幅広く活躍。 「心くばりの感じられる生きた敬語の使い方」を 得意とし、話し方のほか、手紙の書き方などに関する執筆や講演も多い。 著書に『敬語使いこなしパーフェクトマニュアル』(小学館)、『金田一先生に教わった敬語のこころ』(学研教育出版)、『敬語美人になる!』(講談社)、『一筆箋、はがき、短い手紙の書き方』(主婦と生活社)、『真逆の日本語』(中経出版)などがある。最新刊『パーフェクトマニュアル 最新 手紙・メールのマナーQ&A事典』も好評発売中。
コラム記事一覧
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第32回「感動を与える」
大ヒットミュージカルの映画版『レ・ミゼラブル』が人気を呼んでいるとのことですが、映画やドラマ・小説などの宣伝文で「愛と感動を与える壮大な物語」というような言葉を目にすることがあります。 この「感動を与える」という言葉は、時に「みなさんに感動を与えたい」というように使われることがありますが、このような「与える」の使い方が気になる、という声を最近耳にすることが多くなりました。「感動」以外にも、「元気…
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第31回「いただく」と「くださる」
年賀状や寒中見舞いなどの返信で、「(寒中見舞いの)おはがきをお送りいただきましてありがとうございました」などのように書くことがあります。このように、人から物をもらったり、厚意を受けたりした場合には「~いただきまして」「~くださいまして」という表現を用いることが非常に多いものですが、この「いただく」と「くださる」について、どのような違いがあるのか、使い方に迷うという声をよく耳にします。 結論から申…
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第30回「ご出席されますか?」は正しい?
年末年始はパーティーや忘年会などの会合に出る予定も多い時期かと存じます。そんな中、目上の人に出席の確認をするということもよくあるものですが、このような場面で次のような言葉を時々耳にします。 「(先生は)ご出席されますか」 さて、この表現は正しいのでしょうか。これは尊敬表現としては認められてはおらず誤用とされています。誤用とされる理由にはいくつかの説がありますが、次のようなことがよく挙げられま…
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第29回「部長、そろそろ参りましょうか?」は○?×?
前回、「祝電が参っております」という例を挙げて、「参る」の使い方について考えてみました。今回は同じ「参る」の用法で次のような表現について取りあげてみましょう。 目上の相手を誘って一緒に出かけるような場面で、相手の行動を促す時に、次のような言い方をよく耳にすることがあります。 「部長、そろそろ参りましょうか」 さて、この言い方は正しいのでしょうか?「~(し)ましょうか」と相手の意向を尋ねる形で相手…
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第28回「祝電が参っております」
朝晩の凛(りん)とした空気に秋の深まりを感じるころとなりました。秋は、読書の秋、スポーツの秋、行楽の秋など様々ですが、春や6月に次いで、結婚式の多い季節と言われます。 さて、結婚式の披露宴などで時々こんな言葉を耳にするのだけれど、正しいのかどうか気になるという質問を受けることがあります。 「それでは、祝電が参っておりますのでご披露させていただきます」 上のような司会者の言葉の中の、「参る」の使い…
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第27回 意味の似た言葉・響きの似た言葉――「失笑」「苦笑」「口先」「舌先」
――「失笑」「苦笑」「口先」「舌先」 文化庁が毎年行っている、『国語に関する世論調査』の平成23年度の調査結果が、先日、新聞各紙で発表になりました。これは、16歳以上の男女を対象に、言葉遣いや言葉の意味、表記、慣用句の使い方などについての質問に答えてもらうという形式で、個別に面接調査を実施したものです。 では、その調査結果の一部を見てみましょう。●言葉の意味を問う問題(どちらの意味で使うか、とい…
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第26回「良薬はお口に苦し」「お膝が笑う」?
9月22日はお彼岸の中日ですね。 さて、この「お彼岸」のころの気候を表した次のような言葉はよく知られています。「暑さ寒さも彼岸まで」 これは言葉通り、夏の暑さも秋分(秋の彼岸)頃まで、冬の寒さも春分(春の彼岸)頃までで、それを境にして和らぎ凌ぎやすくなるというような意を表しています。手紙文の書き出しでも「暑さ寒さも彼岸までと申しますが、今年はまだまだこの暑さは続くようでございますね」などのように…
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第25回「鈴木氏ら」にご賛同いただきました?
「梅雨明けの暑さ厳しき折、いかがお過ごしでしょうか。私どもは変わりなく過ごしております」 上記の文中の「私ども」のように、名詞や代名詞について複数の意を表す接尾語「ども」は手紙文でも日常会話でもよく使われます。単に複数の意を表すだけでなく、「私ども」「手前ども」「せがれども」のように自称あるいは自分側の人間に付く場合は謙譲の意を含み、「男ども」「野郎ども」「悪党ども」のように人を表す普通名詞に付…
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第24回「利用」できるもの・できないもの
お中元の時季になりました。デパートの催事場や食料品売り場などでも、お中元・夏のごあいさつの贈り物として、さまざまな商品を勧める声が聞かれます。品物を勧める言葉はいろいろですが、最近売り場で特によく耳にするのが次のような言葉です。 「ご利用ください」 いったい何を勧めているだろうかと目をやれば、肉・魚・菓子といった食料品です。別段、そこに置いてある商品を自由に使ってくださいと言っているわけでもなく…
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第23回 新緑の季節の通知・招待状
木々の緑がさわやかなこの時季は、ちょっとしたお誘い事も多いものです。4月は新入学や入社・転勤など、環境の変化が多く、何かと慌ただしいものですが、1、2か月も過ぎるとそろそろ新しい環境にも慣れてくるころですね。春は転勤などに伴う引っ越しも多いので、お誘いも兼ねて転居通知を出すという場合もあるでしょう。 昨今では、転居のお知らせもメールで、という人も多いかと思われますが、メール・はがき、いずれにして…
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