第24回「利用」できるもの・できないもの
お中元の時季になりました。デパートの催事場や食料品売り場などでも、お中元・夏のごあいさつの贈り物として、さまざまな商品を勧める声が聞かれます。品物を勧める言葉はいろいろですが、最近売り場で特によく耳にするのが次のような言葉です。
「ご利用ください」
いったい何を勧めているだろうかと目をやれば、肉・魚・菓子といった食料品です。別段、そこに置いてある商品を自由に使ってくださいと言っているわけでもなく、「買ってください」と勧めているようなのです。つまり、「(お中元・夏の贈答品として)お買い求め、ご利用ください」と言っているのですね。「お買い求めください」「お買い上げください」「ご購入ください」だと、「買う」という表現が直接的すぎて言いにくい感があるため、婉曲的に「利用」という言葉が使われているのでしょう。
しかし、それならばたとえば「よろしければ、こちらをどうぞ」「ご贈答にいかがでしょうか」などの表現に言い換えることができますし、これらの表現のほうが誤解も招かず、よりふさわしいと感じます。 実は、この「ご利用ください」という言葉、デパートの売り場だけではなく、最近はいろいろな場面でやや過剰に用いられているようです。あまり気に留めずに聞き流したり読み流したりしてしまうようなことも多いのですが、場面によっては、よく考えてみると何だかおかしいと感じることもある少々注意すべき言葉といえます。
では、「利用」とは、そもそもどのような意味をもつ言葉なのか、見直してみましょう。国語辞典を引くと、次のように書かれています。
りよう【利用】
1 (物の機能・性能を十分に生かして)役立つようにうまく使うこと。
また、使って役に立たせること。「いつも地下鉄を―する」「廃物―」
2 (ある目的を達するために)便宜的な手段として使うこと。方便にすること。
「特権を―する」「立場を―した卑劣な行為」
〔『大辞泉』(小学館)より〕
「利用」は「使用」とも意味がよく似ていますが、特に、物事を役に立つようにうまく使う、特にその物の利点を生かして積極的に使う、自分の利益のために使うといった場合に用いられるようです。「飛行機を利用する」と言えば、交通手段としての利点を生かして飛行機を使うという意味ですし、「休暇を利用して旅行する」は、休暇をうまく使って旅行するという意味になります。
しかし、「紙を切るのにハサミを利用する」「ご飯を食べるときは箸を利用する」では、違和感が残るものです。やはりこの場合は「紙を切るのにハサミを使用する(使う)」「ご飯を食べるときは箸を使用する(使う)」のように、「使用する」または「使う」という表現のほうがぴったりと当てはまりますね。これは、「ハサミ」はもともと物を切るためのもので、箸も通常ご飯を食べるときに使うものであるため、本来の用途にしたがってそのまま使っているにすぎないためです。ハサミや箸を役に立つようにうまく使っているわけでもなければ、利点を生かして積極的に使っているのでもない、そして自分の利益のために使っているのでもないため「利用」ではおかしいという感じが残るのでしょう。
インターネットを覗いていると、肉、米、果物などの食品について「安心してご利用ください」「ご家庭でも○○厳選の果物をご利用ください」などという表現を時折見かけますが、よく読んでみても単に「ご購入ください」や「お召し上がりください」の意味で使われているようです。先のデパートの例と同様、「買う(購入する)」という直接的な言葉を避けるという理由もあるのでしょうが、食材として使うという意味ならまだしも、単に「食べる」という意味で使うのは本来の「利用」の使い方から外れてしまっていると言えましょう。
このように「利用」という言葉は、「使用」に似ているようで微妙に意味が異なり、使い方にやや注意が必要なようです。幅広く便利に使われている言葉も、類語との違いをよく理解して、場面に合わせて正確に使うようにしたいものですね。