第 9回「お休みをいただく」

 夏休み、仕事を休んで久しぶりにのんびり過ごしたという人も多いことでしょう。
さて、休暇で仕事を休むような場合、時折、次のような言い回しが問題になることがあります。

          「井上は本日お休みをいただいております」

 取引先に電話をした際、担当者が休みの場合などによく聞く言葉です。 必ずしも間違いとは言えませんが、こう言われるとなんだかおかしい、不自然だと感じる人も多いと聞きます。 これは次のような理由が考えられます。
「いただく」というのは「もらう」の謙譲語ですので、たとえば「皆様からご好評をいただきまして、ありがたく存じます」などのように、相手から受けた行為に感謝して述べる場合に使われます。ですから、「休みをいただく」という表現にしても、休みを取る人が上司や同僚に対して、「昨日はお休みをいただきまして、ありがとうございました」のように使うのであれば問題はありません。また、社外の人に使う場合であっても、自分の休みが何らかの形で相手に関係してくるような場合は、「休ませてもらう」という意味で「休みをいただく」という言い方をすることも可能でしょう。

  例:「(仕事の)お願いを申し上げておきながら、来週2日ばかり休みをいただく
          予定になっておりまして、申し訳ございません」
          「夏休みを交代で取るものですから、来週はお休みをいただきたいと思います。
          ご迷惑をおかけして申し訳ございません」

 このように、たとえ社外の人相手であっても、仕事の依頼をしていたり、自分が休むことで相手に面倒をかけてしまったりするような場合、申し訳ないという気持ちを込めて使われます。冒頭の「井上は本日お休みをいただいております」の例も、言う側としては「せっかくお電話をいただいたのに、(当該の者が)お休みをしていて申し訳ない」という気持ちや丁寧に言いたいという気持ちから出た言葉と考えられます。しかし、言われた側としては、休暇を自分が与えたわけでもなく、休暇を取ったことが自分と関係しているわけでもないのに、「休みをいただく」と言われると不自然な感じがするのでしょう。また、人によっては、「休みをいただく」という表現が、休みを与える側、つまり自分の会社に対して敬語を使っているように聞こえることもあるかもしれません。
 このような誤解を受けないためにも、相手によって時には別の表現に言い換えることも必要でしょう。
 言い換え例としては、「休みをとっております」「毎週月曜日は休み(定休日)でございます」などの表現があります。また、電話を掛けてきてくれた人に対して言葉が足りないと感じるならば、次のようなひと言を添えるのも丁寧な感じを与えるでしょう。

  例:「井上は、本日は休みでございまして、申し訳ございません」
        「明日は出社いたしますので、参りましたら渡辺様からお電話いただきました旨、
           たしかに申し伝えます」

 上記のような言い方をすれば、お詫びの気持ちも伝わりますし、電話を掛けてきた相手も、きちんと聞いてくれたと安心感をもつでしょう。
 それからもうひとつ、「お休みをいただく」の「お休み」についてひと言。「お」を付けた言い方も決して間違いではありませんが、自分側の休みですので、「お」を取って「休みをいただく」と言っても粗野ではなく、むしろ取ったほうが自然だと感じる人もあるようです。よく使う言葉ですが、相手の受け取り方も考慮して適切な言葉を選びたいものですね。

第 9回「お休みをいただく」




ほかのコラムも見る