第31回 「ゆっくり」「ゆったり」の意味を表す擬態語

先日、鹿児島から訪れた友人をスカイツリーに案内したときのことである。その友人がライトアップ間近の天空を見上げながらつぶやいた。「ちんちん、くろなった」。一緒にいた連中は、

今回の一枚:クリックすると大きくなります
暑さのせいで突然、妙なことを口走ったのかと大慌て。実は、鹿児島の「ちんちん」は、物事がゆっくりと少しずつ変化していく様子を表す擬態語なのだ。日が落ちてあたりがだんだん暗くなってきた状況を表現しただけなのに、とんだ誤解を招くはめになったのである。この「ちんちん」、「ちんちん歩く」のように、ゆっくりとした動作の様態を表すときにも使われる。

共通語でも、ゆったりとした動作や変化を表すときには「のろのろ」「そろそろ」など、反復形の擬態語が使われるが、方言の世界でも共通しているようだ。

徳島では「しわしわ」。「しわしわ歩きよ(=ゆっくり歩きなさい)」のように使う。ところで、徳島県には「葉っぱビジネス」で注目された上勝町がある。“つまもの”、つまり日本料理を美しく彩る季節の葉や花などを扱うのだが、その担い手がお年寄りなのである。高齢者が活き活きと働ける環境を作り、町の活性化を促したことで知られる町である。その運営会社「いろどり」が発行している広報紙の名前が「しわしわゆこう」。「ゆっくりとあせらずに行こうよ」というメッセージを込めたタイトルだという。

共通語の感覚ではイメージしにくいのが岡山の「ぼとぼと」。共通語で「水がぼとぼと落ちる」と言えば、液体が続けざまにしたたり落ちる状況を思い起こすが、岡山の「ぼとぼと」は全く正反対。むしろゆったり感を表しているのだ。「ぼとぼと歩く」という表現からは、ゆっくり歩いている状況はどうもピンとこない。

富山、石川の「やわやわ」になると、何となくのんびりした感じが伝わってきて安心する。富山のスローライフを推進する情報サイトが「やわやわいかんまいけ」。「ゆっくり行こう」という意味だ。

そもそも擬態語は物事の状態や様子などを感覚的にことばで表現しているわけだが、その感覚にも地域差があるのは不思議である。

篠崎晃一
第31回 「ゆっくり」「ゆったり」の意味を表す擬態語
2012-08-22

ほかのコラムも見る