第26回 「面倒くさい」の意味の方言
夏休みを目前に控えた図書館での光景。
「あーレポートせんないわ」と嘆く山口出身の学生。大阪出身の学生に、「必修科目やけんせんないやん」と言われ、怪訝そうな顔をしている。山口の「せんない」は「面倒くさい」、大阪の「せんない」は「仕方がない」を意味するので会話がかみ合うはずがない。「せんない」は「やる甲斐がない」という意味で平安時代から使われている古語である。山口の「せんない」も大阪の「せんない」も本来の意味を広げた使い方だ。いずれの意味も本筋からはちょっとズレているので、通じ合わなくても“仕方がない”。
大阪で「面倒くさい」は「じゃまくさい」となる。関西人の「あーじゃまくさい!」に敏感に反応し、邪魔者扱いされたと誤解して怒り出す関東人も少なくない。
富山は「だやい」。これ以上何もしたくないという筋金入りの「面倒くさい」のようだ。
福岡、熊本の「せからしか」。「気ぜわしくこせこせしている」意味を表わす室町時代の「せからしい」に由来する。
鹿児島では「てそか」。「てそ」「てっそ」とも言う。この「てそか」は「大層」が変化して生まれたことば。「大層」は江戸時代には「面倒なさま」を表わす形容動詞として「たいそうな~」のように使われていた。それが「たいそい」という形容詞と意識され、「てそい」と形を変えたのである。九州で、形容詞の「暑い」「旨い」が「暑か」「旨か」と「~か」語尾になる特徴と相まって「てそか」が生まれたのである。いわば新しい方言だ。
ちなみに徳島では「たいそい」の形で使われている。
沖縄の「みんどう」「みんろう」は、「面倒くさい」の古い形「めんどい」の変化形だ。
岡山、広島の「たいぎい」、宮崎の「よだきい」もそれぞれ古語の「大儀」「よだけし」の残存だ。
面倒くさいことは肉体的な疲れにつながるということで、これらの方言、「疲れる」意味で使われることも多いようだ。
「面倒くさい」に当たる方言には古語が実にたくさん残っている。昔も今も、世の中、面倒くさいことが多いということか。