第22回 「塩味が濃い」と感じたとき何というか?
どうも関西で供される白みその味噌汁や九州の甘い醤油は苦手である。味覚は人それぞれというが、何をおいしいと感じるかは個人差だけでなく、地域差もあるような気がしてならない。天ぷらにソースをかけたり、トマトに砂糖をかけたりは序の口で、岡山ではかつ丼にデミグラスソースがかかっていたり、名古屋の小倉トースト、あんかけスパゲッティーなどなど…。まあ人それぞれなので“意外な組み合わせ”としか言いようがない。
かつて、ご飯にマヨネーズをかけて食べる人を見て衝撃を受けたが、最近はラー油をかけて食べるという。関西の知人が東京のうどんはつゆが「からい」とぼやくのはまだまだかわいいものだ。
この塩味の濃いことを「からい」と表現する地域は東海から西日本一帯に広がっている。東京でも上品なことばとして使うことはあるようだが。
実は塩味のきついことを意味する「からい」は『万葉集』にも用例が見られ、わさびやからしが利きすぎたときの「舌をぴりぴり刺激する感覚」よりも古い用法なのである。なんと奈良時代には酸味の強いことも「からい」と表現していたようである。どんな味にせよ、度を過ぎたものは「からい」ということだったのだろう。どんなものを食べていたのか気になるところである。
北陸では、塩味がきついことは「くどい」あるいは「しょくどい(塩くどい)」。「この漬物くどいわ」と使う。
逆に塩味が足りないとき、関西では「みずくさい」と言う。一緒に食事をしているときに「なんかみずくさいわ」と言われると、どうも妙な気分になってしまうのである。この「みずくさい」、江戸時代の末期に刊行された、江戸語と大阪ことばを対照させた『浪花方言』にも記載があり、当時から関西のことばとして意識されていたことがわかる。
北陸では、「しょうむない」「しょむない」などと言う。「塩も無い」から派生したことばのようだ。「しょうむない塩ラーメンはしょうもない」などとおやじギャグを言ってしまいそうである。
一般には「辛い―甘い」が反対語の関係になっているが、塩味に関しては、東京で「しおからい(しょっぱい)―あまい」、関西で「からい―みずくさい」という対関係になっているからややこしい。