明治以降に増えた新漢語「共_」をめぐる疑問

田中 牧郎

 

「新漢語」と呼ばれる「新しい漢語」

 日本語の語彙は明治時代から突然増える。その多くは熟語(漢語)だ。明治以降に登場するものは、江戸時代より前の漢語と区別して「新漢語」と呼ばれることがある。ある漢字に注目すると、江戸時代以前にも多く使われていたが、新漢語で使われる機会がぐっと増えたものがある。

 それはどのような字で、なにが理由なのか、ひもといていきたい。

 「共(キョウ)」は明治以降に突然使用頻度が増えた漢字だ。二字熟語「共_」について、『日本国語大辞典』が日本の文献資料の例をあげているものは41語ある。

「共_」の最も古い例(初出)
 ・江戸時代より前…5語(14%)
 ・明治時代より後…36語(86%)
となる。

 比較のため、「明(ミョウ・メイ)」を使う二字熟語「明_」(「明日」「明解」など)を調べてみる。「明恵」のような固有名詞はのぞいた。

「明_」の最も古い例(初出)
 ・江戸時代より前…132語(約82%)
 ・明治時代より後…29語(約18%)
となる。

 つまり、「共_」は、「明_」などの漢字に比べて、明治以降に作られた漢語である「新漢語」率がとても高い。

 初出が江戸時代以前の「共_」5語のうち、4語は現代では使われなくなっている。いまでも唯一使われている「共食キョウショク」(誰かと一緒に食べること)について、江戸時代以前の意味は、「外国使節の飲宴のことをつかさどった者」とされる。この場合の「共」は「供する」の意味と考えられるから、別の語とも言えよう。

 とすれば、現代に生きる「共_」という漢語はすべて明治以降にできた新漢語ということになる。

熟語「共_」はなぜ明治以降に生まれたのか

 たくさんの「共_」が明治以降に生まれたのはなぜだろうか。この問いを掘り下げるには、実際の用例を観察して、意味や頻度に何か特徴がないか分析するのがよい。その分析に役立つのが、国立国語研究所などが公開している言葉の歴史を調べるコーパスだ【1*】。

国立国語研究所の『日本語歴史コーパス』『昭和・平成書き言葉コーパス』
大規模な言語データベース。『万葉集』や『源氏物語』から平成期の雑誌や小説まで幅広く収録している。登録すれば無料で利用できる。調べたい言葉を検索すると、どのような資料に、どのような文で載っているのかを一覧で探すことができる。

 このコーパスから得られる用例の意味に着眼すると、明治以降に登場した36語の「共_」には、政治、経済、戦争、社会運動など、世相を反映する一群の語彙があることに気づく。

 欧米の近代的な政治体制が紹介される明治初期の「共和ーrepublicの訳語」や、明治中期の「共産ーcommunismの訳語」などが代表的なものだ。「共産」は「共産主義」や「共産党」という語の構成要素として大正期に定着を見る。

 日本が戦時体制に入る昭和前期には、植民地化したアジアの地域や民族との「共存」や「共栄」が声高に叫ばれるようになる。昭和中期の労働運動の中で多用されるようになる「共闘」や、平成期以降に防災意識の高まりとともによく使われるようになった「共助」も、世相を反映する語彙に数えてよい。

 これらの語には、西洋語の訳語や近代的な新概念という特徴が、色濃くうかがえる。「共_」という新漢語が多く生まれたのは、日本社会の近代化の過程で、西洋由来などの新概念が浸透するのに、「共_」という漢語が役立ったからだと言えそうだ。

 しかし、この考察だけでは不十分だ。

使用頻度が急増する、ある特徴とは

 歴史コーパスの用例を観察する際に、意味に加えて頻度にも注目してみると、ある特徴を持つ一群の語彙が見出される。それは、新しい意味が出てくる時期に頻度が急増しているという特徴だ。

 『日国』で「共同」は、和英辞典『改正増補和英語林集成』(1886年)を初出としている。

 もとの文献を確認すると、「Kyōdō キョウドウ 共同 Union」とある。union(連合、組合などの意)と英訳されるということは、現代語の「共同」とは意味が違うと考えるべきだろう。

 歴史コーパスの「共同」の初出は『明六雑誌』に2件ある。

「大公の利、共同の益」
(君主の利、一同の益)
――『明六雑誌』12号(1874年)

「大気と水と光とを共同に用ふるの権理あり」(空気と水と光とを誰でもが用いる権利がある)
――『明六雑誌』42号(1875年)

 「一同」「誰でも」といった意味が読み取れそうで、これも現代語の「共同」とは違う。

 現代使われている「共同」……「二人以上の者がいっしょに事を行なうこと」という意味の最古例は、

「抑も露は英清二国共同の宿敵にして」
(そもそもロシアは、イギリスと清の二国が共に宿敵にしていて)
――雑誌『国民之友』第2号(1887年)

という記事になり、この意味が出てきた頃に頻度が急増する。新しい意味が生まれ、それが確立することで、使われる機会がぐっと多くなるというわけだ。

 

普及が進み定着するために

 「共通」「共鳴」「共感」にも、19世紀末、20世紀初め、20世紀半ばに、頻度の急増と新しい意味の確立が認められる。

 頻度の低い時期の用例は、
 「共通」…「色々な場で流通したり通用したりすること」
 「共鳴」…「音や響きが同じになること」
 「共感」…「複数の人が同じ感情を持つこと」
といった、現代語とは違う意味が読み取れる。

 ところが、頻度が急に増える時期には、
 「共通」…「二つまたはそれ以上のもののどれにもあてはまり、通用すること」
 「共鳴」…「ある事実や考えなどに同感すること」
 「共感」…「他人の考え、主張、感情を、自分もその通りだと感じること」
といった、現代語と同じ意味の例が中心になる。

 「共同」「共通」「共鳴」「共感」の4語は、頻度急増期に起こっていた何らかの世相が、そのまま語彙に反映したものではない。「共_」という造語の型を踏まえた表現の工夫が行われる中で、表したい意味にぴったりとはまる語の使い方が多くの人に支持されることで普及が進み、定着していったと考えられる。

 造語の型を生かして新語を作り出し、その使い方を工夫し、意味の確立したものが定着していく、語彙拡充のシステムがある。

 「共」は、このシステムを担う重要な漢字の一つなのだ。

「共」は明治以降に突然使用頻度が増えた漢字だ

イラスト/フクイヒロシ https://291illust.blogspot.com/

 

 

参考資料

【*1】
国立国語研究所(2025)『日本語歴史コーパス』バージョン2025.11
https://clrd.ninjal.ac.jp/chj/(2025年12月5日確認)
小木曽智信・近藤明日子・髙橋雄太・田中牧郎・間淵洋子編(2023)『昭和・平成書き言葉コーパス』バージョン2023.5
https://clrd.ninjal.ac.jp/shc(2025年12月5日確認)

プロフィール

田中牧郎

たなか・まきろう/1962年島根県生。明治大学教授。博士(学術)。専門は語彙論、日本語史。国立国語研究所在職中に、日本語コーパスの構築や、外来語や専門用語の言い換えのプロジェクトに従事した。現在は、コーパスを用いた日本語史の研究や、言語問題や国語教育に応用するための語彙研究を行っている。

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