第18回「ございます」と「いらっしゃいます」2

 前回、「お元気でございますか?」「鈴木様でございますね」など、「ございます」の用法について触れました。「ございます」は、「ある」をより丁寧にした丁寧語ですが、相手に対しての尊敬語にはならないため、「鈴木様でいらっしゃいますね」のように尊敬語の「いらっしゃる」を用いる表現のほうがふさわしいという例をあげました。
 今回は、もうひとつ似たような表現で、よく問題に挙がる下記の例を取り上げてみましょう。
「鈴木様のお住まいはどちらでございますか?」
 これも同じように迷う人が多いと聞きますが、この表現は正しいのでしょうか?通常、相手側のことについて言うときは、「ございますか」よりも「いらっしゃいますか」を使うべきですが、この場合、主語は「鈴木様のお住まい」であって、人ではありません。通常、物に対しては「鈴木様の傘はこちらでございますか?」のように「ございます」を使いますが、「住まい」も同様に考えてよいのだろうかと迷うのでしょう。
 「住まい」は人ではありませんが、「鈴木様のお住まい」となると、「鈴木様」の所有物として同等の敬意を表すべきものと考えられます。言語学者の角田太作氏の説によれば、所有される対象は、本人との近しさの順で次のように並べることができるようです。

身体部分>属性(注:性質のこと)>衣類>(親族)>愛玩動物>生産物>その他の所有物

 最初に挙げられた物ほど、相手自身に近いものとして、「いらっしゃる」などの尊敬語を述語として用いても自然であるということです。
 同じように相手自身に近いものを探してみますと、例えば、「ご郷里」「ご出身」「ご専門」なども同じことが言えるのではないでしょうか。これらも相手に近い言葉、相手自身と同等のものとして表現されるため、「ご郷里(ご出身)はどちらでいらっしゃいますか」「先生のご専門は仏文学でいらっしゃいます」という言い方が違和感なく用いられます。一方、自分側には「ございます」を用いて、「私の郷里は金沢でございます」「私は(専門は)仏文学でございます」という言い方をしますね。
 相手自身に近いもの、相手の所有物という点で、どこまでが「いらっしゃいます」で、どこからが「ございます」か、簡単に分けられるものではないという難しさはありますが、より相手に密接した内容に対しては、物であっても所有者の主語である相手を高める意味で「いらっしゃいます」を多く使うようです。
 丁寧語の「ございます」と尊敬語の「いらっしゃいます」も、場面や主語となる言葉が何であるかをよく考えて、適切に使い分けたいものですね。

山茶花のイラスト
第18回「ございます」と「いらっしゃいます」2




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