第11回「させていただきます」 2
前回、「結婚させていただきます」のような、「させていただく」の不自然な用法について触れましたが、先日、文化庁から発表された「平成22年度 国語に関する世論調査」でも、この表現についての調査結果が報告されています。
調査は、「どちらの言い方を使うか」という問いとして2つの言い方を挙げ、それぞれ4つの選択肢の中から1つを選ばせるという形式で行われています。右側に示した数字はそれぞれ、選んだ人の割合を示しています。
1「明日は休ませていただきます/明日は休まさせていただきます」
休ませていただきます・・・・・ 78.3%
休まさせていただきます・・・・ 18.0%
どちらも使う・・・・・・・・・・3.1%
分からない・・・・・・・・・・・0.6%
2「私が読ませていただきます/私が読まさせていただきます」
読ませていただきます・・・・・ 72.0%
読まさせていただきます・・・・ 23.0%
どちらも使う・・・・・・・・・・4.4%
分からない・・・・・・・・・・・0.7%
さて、上の言い方のうち、それぞれどちらが正しいのでしょうか?正解は、1「休ませていただきます」、2「読ませていただきます」で、ともに「さ」が入っていないほうの形です。
では、「させていただきます」という形ではありませんが、「さ」が入るか入らないかという類似の例として、他にも次のような質問が出されています。
3「今日はこれで帰らせてください/今日はこれで帰らさせてください」
4「担当の者を伺わせます/担当の者を伺わさせます」
5「絵を見せてください/絵を見させてください」
解説では、上記のように動詞の後に「さ」が入っている「帰らさせてください」「伺わさせます」「見させてください」のうち「見させてください」以外は共通語において誤りとされているとしています。その理由は次の通りです。
「~させていただきます」「~させてください」の「させ」は使役の助動詞「させる」の未然形です。使役の助動詞には「させる」と「せる」があり、上一段・下一段・カ行変格活用の動詞の後には「させる」が付き、五段とサ行変格活用の動詞の後には「せる」が付くのが一般的です。したがって、「休む」「読む」「帰る」「伺う」のような五段活用の動詞には「せる」を付けるのが正しく、これに余分な「さ」を加えた「休まさせる」「読まさせる」などの形は「さ入れ言葉」と呼ばれ、誤用とされています。
では、先の問いのうち、「絵を見させてください」についてはどうでしょうか。文化庁の解説では、「絵を見せてください/絵を見させてください」は、どちらも問題のない表現であるとしています。なぜなら、「見せてください」は、下一段活用の動詞「見せる」の連用形に接続助詞「て」と「ください」が付いた形であり、「見させてください」は、上一段活用の動詞「見る」の未然形に使役の助動詞「させる」と「て」「ください」が付いた形であるため、どちらも文法的には正しい言い方と言えるのです。
今回の調査は、全国16歳以上の男女を対象に行われ、各年代ごとの回答の割合も発表されていますが、それによれば年代によっても数字にかなり開きがあるようです。特に、先の例文中の「休ませていただきます/休まさせていただきます」などでは、「休まさせていただきます」という「さ入れ言葉」を使う割合が、60歳以上では13.5%であるのに対し、20代では30.7%、16歳から19歳までの10代では26.3%という結果が出ています。また、「伺わせます/伺わさせます」では、10代の40%もの人が「さ入れ言葉」を使うのに対し、60歳以上では両方使う人を合わせても24.6%の割合です。
ただ、年代ごとの差異はあるにしても、先の例文1、2の例を見ても全体としては「さ入れ言葉」を使わない人の割合のほうが圧倒的に高く、それだけこの言い方に抵抗を感じる人もまだまだ多いと考えられます。謙譲の気持ちを表したつもりが相手に不快感を与えていたということにならないよう注意したい表現ですね。