第 6回「暑中お見舞い申し上げます」
梅雨が明けると、いよいよ本格的な夏の到来、「暑中見舞い」を出す季節ですね。「暑中見舞い」は、暑さのもっとも厳しい折に、相手の健康を見舞って出す挨拶状ですが、日頃ご無沙汰をしている方への近況報告や、お世話になっている方へのお礼を兼ねたりする場合も多いものです。
時期としては、梅雨明けごろから、立秋(8月7、8日ごろ)までの間に出すものといわれますが、梅雨明けの時期や暑さの度合いはその年の気候によって違いがあるので、少し早めに出す年もありますし、お中元の挨拶を兼ねて出すという場合もあるでしょう。立秋を過ぎたら「残暑見舞い」となります。
ところで、話は少し変わりますが、「暑中お見舞い申し上げます」など、特に手紙文や挨拶などの際によく使われる「~申し上げます」という言葉について、使い方について迷うという声を聞くことがあります。
たとえば、次のような例です。
1会場までご案内申し上げます
2お待ち申し上げております
この1、2のような場合、「申し上げる」は「言う」の謙譲語であるから、「案内」や「待つ」のような動作を表す言葉に付けるのはおかしい、「する」の謙譲語である「いたします」を使うべきではないかと考える人があるようです。しかし、結論から申しますと、1、2の例はともに正しい言い方といえます。
「申し上げます」の終止形「申し上げる」を辞書で引くと、次の2つの意味が挙げられています。
もうしあげる【申し上げる】
①「言う」の謙譲語。うやうやしく言う。古くは、身分格差のある目上に言上する意であったが、現在では、改まり丁重にいう「申す」に対し、言う対象を敬う語として一般に用いられる。「謹んで初春のお慶びを―・げます」
②「お」や「御(ご)」の付いた自分の行為を表す体言に付けて、その行為の対象を敬う。…してさしあげる。「お答え―・げます」「御相談―・げたく参上致しました」
(『大辞泉』小学館)
このように、「申し上げる」は「言う」の謙譲語としての使い方だけではなく、②のように、行為を表す言葉に付けて、行為の及ぶ相手側を高めるという用法があります。ですから、「お(ご)~申し上げる」という語形の「申し上げる」は、「言う」の意ではなく、「~する」という意味で使われている言葉であり、先の「ご案内申し上げます」の例も「ご案内いたします」と同様に正しい表現といえるわけです。
「ご案内」と同じように「~いたします」「~申し上げます」の両方に用いられる言葉の例は、他にも「お話」「お尋ね」「ご説明」「ご通知」「ご連絡」「ご招待」などいろいろ挙げられますね。通常は「お」や「ご」の付く体言に続きますが、時には「失礼申し上げます(いたします)」のように、頭に「お」や「ご」が付かない場合もあります。
先述の例文の「ご案内」を例に説明しますと、「お(ご)~いたす」「お(ご)~申し上げる」とその基本形である「お(ご)~する」の敬意の度合いの関係は次のように表せます。
基本の謙譲表現 → より敬意の高い謙譲語
→ 最も敬意の高い謙譲語
「お(ご)~する」 「お(ご)~いたす」 「お(ご)申し上げる」
(例)ご案内します (例)ご案内いたします (例)ご案内申し上げます
このように、「お(ご)~申し上げます」という表現は、最も敬意の高い謙譲語であるため、「ひとことご挨拶申し上げます」「一筆申し上げます」「ますますご清栄のこととお慶び申し上げます」「ご健康とご多幸を心よりお祈り申し上げます」などのように、特に改まった挨拶や手紙文などで多く使われます。「暑中お見舞い申し上げます」も、これらの仲間といえるでしょう。
ふだん手紙や挨拶などの場で何気なく使っている言葉も、こうして意味や使われ方の違いを考えるとおもしろいものですね。