第 1回「手紙の役割・言葉の魅力」
現代社会では、相手との交流手段もさまざまで、携帯電話にメール、あるいはテレビ電話といったものまで、その手段に事欠くことがありません。メールは瞬時に届き、データなどもいっしょに送ることができる、電話もすぐに相手の声が聞けるという点でそれぞれ便利なものです。しかし、メールでは何か物足りない、もうひとつ伝えたいことがうまく伝わりにくいと感じる方も多いようです。
手紙をもらって嫌だと感じる人はほとんどないでしょう。大切な場面でこそ、手紙が効力を発揮することもあるものです。
手紙にはある程度形式があり、この形式が厄介だと感じる方もあるようですが、これがあるからこそ書きやすく、わかりやすいといった良さもあります。
一年のスタートとなるこの季節は、挨拶状や依頼状なども多いかと存じますが、実際の2つの文例を挙げて、その違いを比べてみましょう。
「春の講演会の依頼の手紙」(日時を尋ねる)
■文例1
拝啓 春の花々の咲き競う季節となりました。
このたびはお忙しい中にもかかわらず、お引き受けくださいまして、
ありがとうございました。
サークル会のメンバーに、先生がご快諾くださいました旨、
早速話をいたしましたら、皆、たいへんな喜びようでございました。
ご厚意にあらためて御礼申し上げます。
さて、日時につきましては、次の通りでございます。
どうぞよろしくお願い申し上げます。
まずは御礼と日時のご連絡にて、失礼いたします。 敬具
記
日時 5月、6月の土曜か日曜日 午後1時から
または金曜日の午後5時から
このような日程、時間帯で予定しております。
また、この手紙がお手元に届きましたころに、お電話にてご都合を伺わせて
いただきます。どうぞよろしくお願い申し上げます。
■文例2
拝啓 春の花々の咲き競う季節となりましたが、ほんとうにありがとうございました。お忙しい中にもかかわらず、お引き受けくださいまして、サークル会のメンバーも、みんな楽しみなようでございます。心より御礼申し上げます。日時は5月か6月ごろの土曜か日曜で午後1時ぐらいから。または金曜日でも大丈夫ですが、金曜日は平日はみな勤めに出ておりますので、夕方5時ぐらいからでも。先生のご都合を優先いたしますので、ご都合をお知らせください。
どうぞよろしくお願い申し上げます。 敬具
文例1と2を比べた場合、どうでしょうか?
書かれている中身は同じでも、文例1のほうがわかりやすく、丁寧さも増して感じられます。2つの違いをわかりやすくするために、文例2はやや誇張した点もありますが、実際にこのような書き方の手紙を多く見かけるのもたしかです。では、文例2には、実際にどのような問題があるのか見てみましょう。
文例2の問題点
・話の変わる部分での改行もなく、全体に読みづらい感じがある。
・手紙の挨拶の文章の中に、日時も続けて記してしまっているため、内容がわかりにくい。
・「5,6月ごろ」「1時ぐらい」と時間帯もはっきりしない。
・「平日は勤めに出ているから」「都合を優先」などの表現は、自分本意に聞こえてしまったり、配慮不足な感じを与えてしまったりすることもある。
その点、文例1は、日時などの尋ねたい事柄を「記」として別記していますから、一目でわかりやすく、文章もすっきりして見えます。また、別記部分だけでなく、「このたびは」「さて」などの言葉で始めることにより、話の内容が変わったり、次の用件に入ったりするということがすぐにわかります。ある程度形式にそって話を組み立てて記すことが、「わかりやすさ」「読みやすさ」につながっているのです。
そしてもうひとつは、「この手紙がお手元に届きましたころに、お電話にてご都合を伺わせていただきます」のような、ちょっとした配慮です。何かを尋ねられたような場合、こちらから電話をしたほうがいいのか、あるいは相手からかかってくるのか迷うことも多いものです。
このように、読む人の気持ちになって書くというのも、手紙の中での大切な心くばりといえるでしょう。