共通語な方言
プロフィール
篠崎晃一(しのざきこういち)
1957年、千葉県生まれ。東京女子大学教授。 専門は方言学、社会言語学。方言調査の傍ら、各地の美味いモノ、美味い酒を供する居酒屋を探索することも楽しみとしている。『アレ何?大事典』『日本語でなまらナイト』『ウソ読みで引ける難読語辞典』『アルファベット略語便利辞典』『ことばの えじてん』(以上、小学館)等の監修の他、『例解新国語辞典』(三省堂)編修幹事。方言関連の専門書以外に、毎日新聞社との共著『出身地(イナカ)がわかる!気づかない方言』(毎日新聞社)等がある。
コラム記事一覧
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第12回 東西対決「ささくれ」「さかむけ」 勝者は?
子どもの頃に、「ささくれができるのは親不孝の証拠だ」という俗信を聞かされたことがある。爪の生え際の皮が荒れて、指の根元の方に細かくむけると痛くて母親の炊事の手伝いができなくなるからだ、などともっともらしい俗説を聞かされたものだ。とにかく母親の手伝いをしなさいという教訓のつもりなのだろう。 それはそうと、最近ではそのささくれを治す薬があるらしい。その名も“サカムケア”(写真1)。TVでもCMが流…
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第11回 打撲による内出血のために皮膚が変色した部分を何と呼ぶか
先日、机の角に脛を強打し、その猛烈な痛みとともに学生時代の一場面がよみがえってきた。友人たちと談笑していた時のことである。「ぶつけたところが青なじみになっちゃったよ」と言った途端、話題が中断し、周りからは「?」の表情を浮かべた顔が接近してきたのである。首都圏で生活していながら日常的に使っていることばの中に、共通語ではないものが存在していることを自覚した瞬間であった。このアオナジミが千葉と茨城だけ…
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第10回 信号が“パカパカ”する?
名古屋を訪れる度に感じることは、とにかく道幅が広い。横断歩道を渡るときでも、はたして青信号の間に渡りきれるのかと不安になり、ついつい早足になってしまう。ちょっと油断してのんびり歩こうものなら、赤信号へのカウントダウン、青の点滅が始まってしまうのである。 そんな時、子供の手を引きながら小走りで横断歩道を渡る母親の声が耳に入ってきた。「信号パカパカしとるで、ちゃっと渡らんと!」。「ん?」、思わず耳…
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第 9回 テレビの番組終了後の「砂嵐」はザーザーではない!?
中学生のころ、「テレビ番組の放送がすべて終了した後の深夜になると、「砂の嵐」というすごい番組が海外から流れてくるらしい」という噂が広まったことがある。眠い目をこすりながらテレビの前に座っていると、当然のことながらそこに待っているのは、電子顕微鏡によるバクテリアの拡大写真のような画面と耳障りなノイズ。それでもすぐには騙されたと疑わず、もしかしたら海外の電波は受信状態が悪いのではないかと、目を細めた…
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第 8回 “模造紙”の呼び方で出身地がわかる
“模造紙” れっきとした紙なのになんとも怪しげなネーミングである。諸々の情報によれば、「明治中期に、大蔵省印刷局が製造した局紙をまねた紙がオーストリアで製造され、大正初期になってそれをさらに日本で模して作ったために模造紙と呼ばれるようになった」という説が有力のようである。本家なのに“模造紙”とは肩身が狭いものだ。「模造した紙」では呼び名とその物とが結びつきにくいためであろうか、この紙にはオーバン…
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第 7回 「○回生」VS「□年生」は、京大 VS 東大の戦いだった!
西日本の大学に通っている学生に「何年生?」と尋ねると、「○回生です」と答える学生が多い。うーん、質問には答えているが、こちらは「何年生」と聞いているのに…。飛行機に搭乗した際、「ブランケットいかがですか?」とやさしく微笑みかける客室乗務員に、わざと「ひざ掛けお願いします」と応じる自分と同類ならばなかなかあなどれない奴ではないのか。ほんのささやかな受け答えに、大げさにあれこれ思い巡らしてはみたもの…
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第 6回 ところ変われば味も呼び名も変わる
大阪から上京して来た友人と居酒屋に行ったときのことである。注文した肉じゃがが運ばれてくるやいなや中をのぞき込み、「なんやこれ、肉ちゃうやん、豚やんか!」と叫んだのである。頭をよぎるのは関西の公式「肉=牛肉」。この公式を当てはめると、豚肉の入った中華まんじゅうも「肉まん」とは呼んでもらえない。あくまでも「ぶたまん」なのである。そう言えば、お好み焼き屋のメニューにも「肉天、肉玉」と並んで「豚天、豚玉…
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第 5回 鹿児島県人は「黒板消し」を「ラーフル」という
チョークで書いた字を消すときに使うのは「黒板消し」か「黒板拭き」なのかと話題になったことがある。そもそも黒板は「消す」のか「拭く」のかという議論にまで発展して盛り上がったものだ。個人的には、「拭く」と言えば黒板に付着したチョークを取り去って黒板そのものをきれいにするし、「消す」と言えば黒板に書かれた文字や図をなくするという感じがする。拭いた後は黒板がきれいになっているし、消した後は再び字が書ける…
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第 4回 「離合困難」っていったいどういう意味?
「離合困難」、京都の郊外に堂々と立てられている道路標識である(写真)。警察署の記名もあり公共性が極めて高い。お上の威光か、材質も立派、風格さえ感じさせる。ところが、そこに書かれている内容はよそ者には全く意味不明なのである。お上が発する情報がチンプンカンプンとはどういう了見だ!そんないちゃもんをつけたがる輩もいるに違いない。脇に添えられた「幅員狭小」。カタカナ語の氾濫はけしからんとの風潮もあるが、…
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第 3回 今なお健在な関西の「指詰め注意」
「最近は見かけなくなったが、以前は大阪で電車に乗ると、ドアには必ず「指詰め注意」のステッカーが貼られていた(表記が「指詰め」だったか「ゆびづめ」だったかは定かではないが)。大阪で初めて目にしたときはギョッとなったものである。「指をつめる」と聞いてまず思い浮かぶのが極道モノの映画やドラマだからである。しかもそれらの舞台はほとんど関西なのだ。車内のドアというドアに貼られた「ゆびづめ」の文字が何ともい…
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