日本語マナーの歳時記
概要
言葉遣いへの心くばりは、相手とのコミュニケーションを考える上でも欠かせないものです。心があれば言葉遣いなんて二の次だというのもわからなくはありませんが、その心を何で表すかと言えば、態度や言葉でしょう。相手に対しての敬意や心くばりを表す言葉を「敬語」と呼びますが、この敬語は、ビジネスの場面でのみ使うものかというと決してそうではありませんね。目上の人との会話、改まった場面など、日常生活でもたくさんの場面で使われます。また、対面での会話以外に、電話応対、手紙とその範囲も広いでしょう。
言葉は常に生活に密着しています。服装にもTPOや季節感があるように、各場面でどれだけふさわしい言葉を選り分けて使うことができるかどうかが、肝心です。
場面と言葉の調和、そして心くばりを基本に、季節やその時々で話題になる、気になる言葉などを取り上げながら、言葉の疑問点や注意点、ポイントなどを見直す「日本語マナーの歳時記帳」として、ご覧いただければ嬉しいことと思っております。
プロフィール
井上 明美(いのうえ あけみ)
ビジネスマナー・話し方・敬語講師 国語学者、故金田一春彦(事務所)元秘書。 現在は在職中に引き続き、言葉の使い方や敬語の講師として、企業、学校など 教育研修指導の場で幅広く活躍。 「心くばりの感じられる生きた敬語の使い方」を 得意とし、話し方のほか、手紙の書き方などに関する執筆や講演も多い。 著書に『敬語使いこなしパーフェクトマニュアル』(小学館)、『金田一先生に教わった敬語のこころ』(学研教育出版)、『敬語美人になる!』(講談社)、『一筆箋、はがき、短い手紙の書き方』(主婦と生活社)、『真逆の日本語』(中経出版)などがある。最新刊『パーフェクトマニュアル 最新 手紙・メールのマナーQ&A事典』も好評発売中。
コラム記事一覧
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第12回「ご記入してください」をご確認ください
朝晩の気温がだいぶ下がり、そろそろ冬物の装いが気になる季節ですね。 先日、デパートの洋服売り場をのぞいていたところ、若い店員さんからこんな風に声をかけられました。 「お洋服はすべてご試着していただけます」 店員さんの言葉に違和感を覚えながらも、その後、品物を選んでレジへ並び、クレジットカードで支払いをしたところ、先ほどとは別の店員さんから、今度はこんな言葉をかけられました。 「こちらにサインを…
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第11回「させていただきます」 2
前回、「結婚させていただきます」のような、「させていただく」の不自然な用法について触れましたが、先日、文化庁から発表された「平成22年度 国語に関する世論調査」でも、この表現についての調査結果が報告されています。 調査は、「どちらの言い方を使うか」という問いとして2つの言い方を挙げ、それぞれ4つの選択肢の中から1つを選ばせるという形式で行われています。右側に示した数字はそれぞれ、選んだ人の割合を…
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第10回「させていただきます」 1
最近、ある政治家が記者会見の場で次のような発言をしているのを耳にしました。 「大臣を辞任したいという申し出をさせていただき、総理のほうから受理をしていただいたところでございます」 この中で使われている「(さ)せていただく」という表現は以前からしばしば問題にされています。問題視される理由はさまざまあるようですが、「(さ)せていただく」が昨今あまりにも過剰に使われているという状況にも原因があるものと…
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第 9回「お休みをいただく」
夏休み、仕事を休んで久しぶりにのんびり過ごしたという人も多いことでしょう。 さて、休暇で仕事を休むような場合、時折、次のような言い回しが問題になることがあります。 「井上は本日お休みをいただいております」 取引先に電話をした際、担当者が休みの場合などによく聞く言葉です。 必ずしも間違いとは言えませんが、こう言われるとなんだかおかしい、不自然だと感じる人も多いと聞きます。 こ…
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第 8回「賞味」と「笑味」
前回「お中元」について触れましたが、贈り物の中でも食べ物をもらう機会というのも案外多いのではないでしょうか。 さて、この食べ物へのお礼の言葉として時折目にする次の言葉は、気になる言葉のひとつとしてよく問題に挙げられています。 「先日お送りいただきました御地の桃、賞味いたしました」 この「賞味」という言葉が、使い方によってはやや不自然な感じを受けるという人もあるようです。たぶんこれは、この言…
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第 7回「お中元」は何月何日?
6月末から7月になりますと、デパートでも「お中元」の特設場が設けられ、毎年賑わいを見せます。「お中元」を贈る時期は、地域によって異なるようで、関東では7月の初めから15日ごろまでに贈りますが、関西などでは7月末から8月中旬に届くように贈るのが一般的なようです。 ところで、現代では「お中元」といえば、この時期に日頃お世話になっている方などに品物を贈る風習をいいますが、元来は別の意味をもつ言葉であ…
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第 6回「暑中お見舞い申し上げます」
梅雨が明けると、いよいよ本格的な夏の到来、「暑中見舞い」を出す季節ですね。「暑中見舞い」は、暑さのもっとも厳しい折に、相手の健康を見舞って出す挨拶状ですが、日頃ご無沙汰をしている方への近況報告や、お世話になっている方へのお礼を兼ねたりする場合も多いものです。 時期としては、梅雨明けごろから、立秋(8月7、8日ごろ)までの間に出すものといわれますが、梅雨明けの時期や暑さの度合いはその年の気候によ…
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第 5回「するめ」と「あたりめ」
6月といえば、「ジューンブライド」。ローマ神話で結婚の女神Junoの月とされ、この月に結婚する女性は幸せになるという言い伝えがあるとか。日本はちょうど梅雨の季節に当たりますが、「ジューンブライド」にあやかって結婚式を挙げるカップルも多いそうです。ところで、この結婚式の場で使ってはいけない言葉があるというのはよく言われることですが、いったいどんな言葉があるのでしょうか。 以前、親戚の結婚式に出席…
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第 4回「つまらないもの」とは 2
前回、人に贈り物をするときに用いられる表現のひとつである「つまらないものですが」について触れましたが、英語では、This is for you.(あなたへのプレゼントです)とか、I hope you’ll like it.(喜んでいただけると嬉しいです)などの表現が一般的であると聞きます。 「喜んでもらえると嬉しい」という意味合いの表現は、日本語でも使うことがありますね。たとえば、「お嬢さんは本…
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第 3回「つまらないもの」とは 1
5月の第2日曜日は母の日でしたね。日頃の感謝の気持ちを込めて、お母さんにプレゼントを贈った方も多いのではないでしょうか。 ところで、皆さんは、人に贈り物や手土産などを渡すときに、どんな言葉を使いますか? 「よろしければ召し上がってください」「きっとお似合いになるかと思いまして」などのほか、「つまらないものですが、お気に召していただければ…」などと言うことはないでしょうか。 この「つまらないも…
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