第28回「祝電が参っております」
朝晩の凛(りん)とした空気に秋の深まりを感じるころとなりました。秋は、読書の秋、スポーツの秋、行楽の秋など様々ですが、春や6月に次いで、結婚式の多い季節と言われます。
さて、結婚式の披露宴などで時々こんな言葉を耳にするのだけれど、正しいのかどうか気になるという質問を受けることがあります。
「それでは、祝電が参っておりますのでご披露させていただきます」
上のような司会者の言葉の中の、「参る」の使い方が気になるようです。では「参る」という言葉の意味と使い方を再確認してみましょう。
「参る」は、「行く」「来る」の意の謙譲語として使われています。
A「明日、私も会場に参ります」
B「何時ごろ会場に参ればよろしいでしょうか」
C「10時にお迎えに参ります」
などがその例です。
これは、主語である自分や自分側を低めて、聞き手に丁重に述べる働きをもつため、謙譲語(詳しくは「謙譲語」Ⅱ〈丁重語〉)と呼ばれます。ですから、反対に聞き手を主語として、「先生も明日会場に参りますか」「先生は何時ごろ参られますか」などの表現が誤りであるのは言うまでもありません。
また、「参る」は、次のような使われ方をすることもあります。
D「だいぶ涼しくなってまいりました」
E「1番ホームに電車が参ります」
このような例は、主語を低めるという意味合いはなくなり、単に聞き手に対して丁重さを表す意で用いられるものです。以前は、「丁寧語」に属する語とも言われていましたが、現在は「敬語5分類」の中での「謙譲語Ⅱ」(丁重語)と呼ばれています。Dの「まいる」は補助動詞「くる」の丁重語、Eの「参る」は動詞「来る」の丁重語です。
そこで、問題の「祝電が参っております」に戻りますと、丁重語として使われている例とも考えられます。その意味では間違いではありませんが、先の「明日、私も会場に参ります」「10時にお迎えに参ります」のように、同じ丁重語でも、主語を低める用いられ方をすることもあるため、やや落ち着かない感じをともなうのでしょう。つまり、「祝電が参っている」では、祝電の発信者に対して敬意が不足しているように響くため、不自然、不適切と感じる人が多いのではないかと思われます。
そのような誤解や敬意不足を防ぐには、次のような表現に言いかえるとよいでしょう。
1「祝電をいただいております」「祝電を頂戴しております」
司会者が主催者側に立った表現。
2「祝電が届いております」
司会者が中間・中立の立場になった表現
司会者の立場をどうとらえるかによって違ってくるでしょうが、司会者も主催者側と同じであり、列席者や祝電の発信者は「お客様」という関係で考えるならば、1がより適切な言い方となるでしょう。
ほかにも、「参る」と同じようによく問題となる語に「申す」や「いたす」があります。下の表にある通り、それぞれ、主語を低める使い方と、単に聞き手に対して丁重に言う使い方の2通りの使い方があります。
よく使う動詞・補助動詞の謙譲語の用法をよく知って、だれが主語なのかを考えながら、相手への敬意を欠くことのないようふさわしい言葉を使いたいものですね。