第25回「鈴木氏ら」にご賛同いただきました?

 「梅雨明けの暑さ厳しき折、いかがお過ごしでしょうか。私どもは変わりなく過ごしております」 上記の文中の「私ども」のように、名詞や代名詞について複数の意を表す接尾語「ども」は手紙文でも日常会話でもよく使われます。単に複数の意を表すだけでなく、「私ども」「手前ども」「せがれども」のように自称あるいは自分側の人間に付く場合は謙譲の意を含み、「男ども」「野郎ども」「悪党ども」のように人を表す普通名詞に付く場合は、軽蔑の意を含みます。
 似たような接尾語は他にも次のようなものがあります。

「たち」
意味:人や動物などの語に付いて複数を表す。
使用例:私たち・子どもたち・動物たち・生き物たち

「ら」
意味:人に関する体言に付いて複数であることを指す。自分側を表す言葉について謙譲の意を表したり、自分側以外の人を表す言葉について軽蔑・見下しの意を含んだりすることもある。
使用例:私ら・ぼくら・きみら・彼ら/あいつら・てめえら・やつら

 さて、ここで注目したいのは「ら」ですが、この言葉、使い方にやや注意が必要です。たとえば第三者について「彼らは賛同した」などの言い方やニュースの解説などの場面で「市の職員ら数名が賛同の意を表した」ならば問題ないでしょう。しかし、会合の挨拶などで相手側の人を指して「鈴木氏らにご賛同いただきました」では何だか敬意不足で失礼な感じを与えてしまうものです。このような場合は、同じ複数を表す言い方でも「鈴木氏ほか何名かの方々にご賛同いただきました」「鈴木氏はじめ何名かの方々にご賛同いただきました」のように言い換えるべきでしょう。
 「たち」も同じようなことが言えます。「職員たちは一斉に手を挙げて賛同した」はおかしくありませんが、相手と一対一で会話する場合には違和感が生じることがあります。「子どもたちは集まってください」とは言うことができても「職員たちは集まってください」だと言いにくさが残るものです。
 「たち」もさかのぼれば古くは敬意の高い言葉で、「公達(きんだち)」のように貴人に対して用いられていたものと言われますが、現在では「ら」「ども」よりは丁寧な言い方ではあっても「方」などに比べると敬意は軽くなります。ですから先ほどの「職員たち」の例もほかに敬意を表すべき相手があって「承知いたしました。職員たちにも申し伝えます」ならば構いませんが、一対一の場合は、「職員の皆さん」または「職員の方々」「先生方」などの言い方が自然でしょう。
 このように、人を表す言葉もさまざまです。接尾語以外にも、相手側には「あちら様」「先様」、自分側には「者」(例:係りの者)などの言葉が使われることもあります。相手そのものを表す言葉ですから、敬意を欠くことのないように、場面に応じた適切な言葉を使い分けるよう留意しましょう。

第25回「鈴木氏ら」にご賛同いただきました?




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