第 4回「つまらないもの」とは 2
前回、人に贈り物をするときに用いられる表現のひとつである「つまらないものですが」について触れましたが、英語では、This is for you.(あなたへのプレゼントです)とか、I hope you’ll like it.(喜んでいただけると嬉しいです)などの表現が一般的であると聞きます。
「喜んでもらえると嬉しい」という意味合いの表現は、日本語でも使うことがありますね。たとえば、「お嬢さんは本がお好きと伺ったので、喜んでいただけると嬉しいのですが…」「旅先で試食をしたら美味しかったので、ぜひ召し上がっていただきたくて…」などの表現です。また、親しい友人、知人相手であれば、「これ美味しいのよ、どうぞ召し上がって」「きっとお似合いになると思って、どうぞ使ってみて」のように、親しみをこめてやや積極的に勧めることもあるでしょう。最近はこのような表現もしばしば耳にするようにはなりましたが、もともと日本語では、先の「つまらないものですが」に見られるように、自分側を低める、ひかえめに表現するような言い方が好まれる傾向にあるようです。
初対面の相手などに、「これは極めて高価なものでして、ぜひあなたに喜んでいただきたくて」と勧めては、押しつけがましい感じがして言われた側もいささか戸惑うでしょう。たとえ高価な良い品であっても、あまり自慢しすぎず、ひかえめに表現するのが礼儀であるという心理が働くようです。
また、ひかえめな表現と並んで、もうひとつよく用いられるのは、相手があまり負担に感じることのないようにという気くばりの表現です。
「たしか以前バレエがお好きと伺いましたので、いただいたチケットですが、よろしければ…」「こちらに伺う途中で、店先にきれいなお花が並んでいたものですから…」のように、手間を掛けずに入手したことをさりげなくひと言添えることがあります。これも、相手が心配したり負担に思うことのないようにという配慮の表れと言えるでしょう。
それ以外にも「おくればせながら、お節句のお祝いにと思って。気持ちばかりだけど…」「お母様が怪我で入院なさったと伺いましたが、ご心配ですね。これは気持ちばかりですが…」などのような、「気持ちばかりですが…」という表現も、時と場合を選ばずさまざまな場面で用いられますね。
ほかにもこのような贈答や物を勧める場面でよく使われる言葉がありますので、次に挙げてみましょう。
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〈食べ物を贈る、勧めるとき〉
■「お口に合うとよろしいのですが…」
(相手の味覚に合う、美味しいと思ってもらえたらの意)
■「お口汚しですが、どうぞ召し上がってください」
(口を汚すほどの物でしかありませんがの意)
〈いただき物を勧めるとき〉
■「お持たせで恐縮ですが…」
(「お持たせもの」の略。
お客様が持って来たお菓子などをその場で勧める場合などに用いる)
〈特に目上の人に対して〉
■「お眼鏡にかないましたら…」
(「お眼鏡」は相手の鑑識、判定、目利きの意。
「お眼鏡にかなう」の形で、目上の人に気に入られる意)
〈品物全般に対して〉
■「お気に召しますかどうか…」
(「お気に召す」=「気に入る」の尊敬語)
〈品物全般や熨斗(のし)の上書きなどに〉
■「粗品」
(「粗品進呈」などのように人に贈る品物をへりくだって言う)
〈主に手紙で使う表現〉
■「ご笑納ください」
(粗末な品なので、笑ってお納め下さいの意)
「ご笑覧いただけましたら幸いです」
(拙い内容なので、笑ってご覧いただければありがたいの意)
「ご笑味ください」
(粗末な食べ物なので、笑って召し上がってくださいの意)
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このように、物を贈ったり勧めたりする際に使われる言葉も案外多いものですね。やや慣習的な決まり文句と感じたり、受け取り方の個人差もあるかもしれませんが、これらの表現は、会話をする際の潤滑油でもあり、何より相手に対する気くばりの表れと感じます。相手との関係や用途など、場面に合わせてより適切な言葉を使い分けることは「贈り物の心くばり」であると言えるでしょう。