第19回 気になる「お」とは
立春を過ぎてもまだまだ寒い日が続き、肌の乾燥する季節ですね。
さて、先日買い物をしておりましたら、化粧品のカウンターでの女性店員のこんな言葉が耳に入ってきました。
「使いはじめてすごくお肌の調子がいいものですから、私もお肌のために
毎日使っているんです。お肌のためにはもうすごくお勧めなんですよ!」
何だか気になりますが、それはなぜかと言うと「お肌、お肌」と連発していることと、この「お」の使い方に問題があると感じます。丁寧に品よく言おうとする「美化語」と考えれば間違いではありませんが、なぜ気になるのでしょうか。これは「お客様のお肌」ならば「お肌」で違和感はありませんが、先の例はすべて「私」の「肌」に対して「お」を付けている点で、なんだかしっくりこないと感じるのではないでしょうか。
「お」の問題ではありませんが、似たような過剰敬語の誤りとして、次のような例があります。
「こちらのセットにはお飲み物がお付きになっておりますが、どうなさいますか」
「ご注文の品はお揃いになりましたでしょうか」
というような接客の際の言葉です。
「お付きになる」「お揃いになる」の部分、何だか妙ですね。これでは「飲み物」や「注文の品」に対して敬語を使っていることになってしまいます。例えば、「(先生の)お嬢さんは、介護のためずっと先生のそばにお付きになっていらっしゃる」「みなさんお揃いになりましたでしょうか」という例であれば、人が主語ですから「付く」「揃う」の尊敬語として「お付きになる」「お揃いになる」という表現も使えますが、飲み物や品物に対して尊敬語を使うのはおかしいですね。
前回(第18回)で述べたように、相手に近い所有物や相手の状態などとして「お宅が完成なさった」や「(怪我が)お治りになった」という言い方は自然でも、「犬がいらっしゃる」や「(電話の故障が)お直りになった」は不自然です。尊敬語を使うのであれば所有者を主語にして「犬を飼っていらっしゃる」としたり、敬語表現を省いて「(電話の故障が)直った」と言ったりするのが正しい表現ですね。ですから、先のレストランの例も「お飲み物が付いておりますが、どう(いかが)なさいますか」「ご注文の品は揃いましたでしょうか」とすれば問題ないといえます。
上のような誤用例は、どこに敬語を使うか、敬語を使うべき対象を誤ってしまった例です。「私のお肌」の「お」も、だれの所有物や行為に対しての言葉かという点を考えないままの使ってしまっている、美化語の過剰使用と言えるでしょう。尊敬語、謙譲語、丁寧語、美化語とさまざまな意味で使われる「お(ご)」の付く言葉ですが、敬語の対象は何であるかを考え、むやみに付けすぎないように注意しましょう。