第30回 “簡単”の意味の方言は簡単ではない?
「今日のテストみやすかったー!」
と言ってもカンニングし放題というわけではない。島根、広島、山口など中国地方の西部では「簡単だ」という意味で「みやすい」を使うのである。ただし、「難しい」の対義語としての「簡単」に位置づけられるほど”簡単”な話ではない。「ちょろいもんだ」とのニュアンスが含まれているようだ。むしろ共通語の「たやすい」に近いのかもしれない。
この「みやすい」の原型「みやすし」は平安時代から用例が見られ、「見苦しくない」という意味で『枕草子』にも登場する。明治以降になると「みやすい理屈」のように「筋道が立っていて、よく理解できる。わかりやすい」という使い方が現れるが、どうもこの意味が広がって方言に残ったのかもしれない
似ているのが鹿児島の「もやし」。やはり古語の「もやすし」に由来する。室町時代にすでに「たやすい」という意味で使われていたようだ。「もやすい」が変化して「もやし」。鹿児島では「モヤシを使ったもやしかレシピ」などと言うのだろうか。
山形では「じょさね」。「雪道の運転だば慣れっどじょさね。」のように使う(実はそう言いながら側溝に前輪がはまってしまった知人がいたのだが)。「造作無い」が変化して生まれた語形だ。秋田、宮城など東北地方で広く使われている。「ぞうなねえ」と原型に近い形で使っているところもあるようだ。もとの形「造作無し」も室町時代から使われている古語だ。
山形県天童市では「平成鍋合戦」なるイベントが毎年行われているが、その歴代参戦鍋リストを眺めていると、ありました「じょさね鍋」。もちろん「簡単で手間のかからない鍋」である。
福井では「ちゃらすい」。
何でも簡単に片付いてしまいそうな語感である(と言っては福井県人に失礼か)。
北海道の「あっぱくさい」は「たやすい」を通り越して「易しすぎて問題にならない」とのニュアンスを含むようだ。共通語の「お茶の子さいさい」などがぴったり当てはまるのかもしれない。学校で、女の子に「この問題、解ける?」と聞かれ、「そんなのあっぱくさい!」と言ってすらすら解いてしまうとモテるに違いない。